2015年12月25日金曜日

内村光良「ボクたちの交換日記」

房総半島の高校水泳部でいっしょだったふたりが結成したお笑いコンビが房総スイマーズだ。
富津岬にある公園の展望台がその夢の出発点だった。映画のなかで久しぶりに故郷のその地に向かう伊藤敦史は内房線の青堀駅からバスに乗っていく。
売れない芸人というのは(芸人に限ったことではないが)哀しいものだ。
その哀しさを長澤まさみ、木村文乃が受けとめている。

2015年12月8日火曜日

ジャン=ピエール&リュック・ダルテンヌ「サンドラの週末」

マリオン・コティヤールの「君と歩く世界」は観たかった。
残念ながら見逃してしまった。
彼女の存在を知ったのは「エディット・ピアフ~愛の賛歌~」でだ。それ以前に「ロング・エンゲージメント」にも出演したらしい。まったく記憶にない。
雇用の問題は深刻だ。
金銭がからむと人間は賤しくなる、汚くなる、醜くなる。映画だからといって誰も助けてはくれない。
哀しいけれどこれが現実だ。

2015年12月7日月曜日

リチャード・グラッツァー、ウォッシュ・ウェストモアランド「アリスのままで」

歳相応にもの忘れはする。
もの忘れがアルツハイマー病という仰々しい名前を冠するようになって久しい。若い人を主人公にした若年性アルツハイマーをテーマにした映画も以前観たことがある。
それにしてもこの映画はなまなましい。
ジュリアン・ムーアの好演によるところが大きいのか、僕ぐらいの年代の人にとって共感できる年齢的な設定のせいだろうか。
僕がアルツハイマー病といわれても、おそらくもう若年性ではないだろうが。

2015年5月12日火曜日

篠田正浩「瀬戸内少年野球団」

ずっと昔に観たこの映画は夏目雅子のまぶしさと佐倉しおりのういういしさだけが強烈な印象をとどめた。
BSプレミアムで久しぶりに観てみた。
どうにも中途半端な映画に思えてきた。
戦後の処理と日本の再生という終戦の混乱がゆるく描かれていること。野球をはじめようという動機づけや野球に打ち込む少年たちのひたむきさが希薄にしか描かれていないこと。思春期のときめきだとか野球をつうじて芽生える心のつながりとか。
どれもちゃんと描かれているようでどこか物足りない。総花的な映画だった。

2015年5月8日金曜日

木下恵介「二十四の瞳」

以前住んでいた杉並の下井草は西武新宿線鷺ノ宮駅の隣。
その鷺宮には壷井栄が住んでいたという。
近くを流れる妙正寺川にはオリーブ橋という橋が架かっている。近隣の小学校が小豆島の小学校と姉妹校になった際に名付けられたのだという。
木下恵介のスケールの大きい名作映画。
小さな島の幼い子どもたちとおなご先生が大きな感動を支えている。
おいしいうどんを食べたくなった。

2015年4月13日月曜日

ウディ・アレン「マジック・イン・ムーンライト」

新宿ピカデリーが建て替えられてもうすぐ6年になろうというのに映画を観るのははじめてだった。
ウディ・アレンの映画は久しぶりのこと。この前に観たのが何だったかも思い出せない。
舞台は南仏コートダジュールだという。
またフランスに行ってみたいなあ。

2015年3月27日金曜日

フレッド・スケピシ「ミスター・ベースボール」

選抜高校野球がはじまった。
春は野球だ。
先日、凍えるほど寒い日に東京都春季大会の予選を観に行った。今年もたくさん試合を観たい。
景気づけにこの映画を観た。
昨年の今ごろ亡くなった叔父が中日ドラゴンズのファンだったことを思い出した。

2015年3月22日日曜日

森田芳光「僕達急行A列車で行こう」

森田芳光の遺作。
登場人物の名前などに列車の愛称がつけられている。鉄道を愛する者どうしの間で友情が生まれ、信頼関係が結ばれる。
偶然に偶然が重なるのは映画の常だから仕方ない。
これだけの鉄道風景を見ることができたのだからまあよしとしよう。

2015年3月20日金曜日

小津安二郎「浮草」

戦前に製作した「浮草物語」を小津安二郎自身がリメイクした映画だという。
旅役者の中村鴈治郎、連れ合いに京マチ子。そして川口浩に若尾文子。この頃の若尾文子の可憐さといったら。そして名女優杉村春子の日陰の芝居がここでも光っている。
小津映画のなかでは波風の立つ動きのある作品だと思った。

2015年3月13日金曜日

アーサー・ペン「俺たちに明日はない」

BSプレミアムでアカデミー賞受賞作を続けて放映していた。これもその録画で観た。
ボニーとクライドという銀行強盗は当時(1930年代)実在していたという。本物もウォーレン・ベイティやフェイ・ダナウェイのような美男美女だったのだろうか。
当時の銀行は無防備といえば無防備だ。こんなにいとも容易く銀行強盗ができてしまったのだろうか。
それにしてもアメリカ社会というのはどれほど銃が好きなんだと言われても仕方のないようなラストだった。

2015年3月12日木曜日

荻上直子「レンタネコ」

荻上直子の監督作品のうち「かもめ食堂」は以前劇場で観たことがある。
独特の空気というか、奇妙な時間が流れていた。
この作品も同様。
多摩川下流河川敷の日常的なのか非日常的なのかわからない風景。
庭の竹垣で隣家と接する不思議な方位感覚。
そしてどう演技をつけたのか、いい芝居をする17匹のネコ。
たいへんな撮影だったに違いないが、そうと感じさせない飄々とした映画である。

2015年3月4日水曜日

山田洋次「小さいおうち」

母の叔母が四谷荒木町の油屋で奉公していた。
結婚することもなく、生涯をその家で過ごした。娘たちからは「ねえやさん」と呼ばれていた。
ねえやさんが癌で入院していたとき(たぶん僕は小学校の低学年だったと思う)、母と見舞いに行ったのを憶えている。
この映画を観て、最後にねえやさんに会ったときのことを思い出した。

2015年2月19日木曜日

チャン・イーモウ「単騎、千里を走る。」

高倉健の追悼特集がテレビで放映され、レンタルビデオ店では特設コーナーが設けられたりしている。この映画もBSで放映されたものを録画で観た。
絶縁状態にあった父と子。
余命幾許もない民俗学者の息子。彼が交わした約束を果たすために父親高倉健が単身中国に渡る。
現地では多くのエキストラが必要だっただろうが、出演者がきわめて少なく、濃厚なドラマだった。中国ならではの雄大な乾いた景色もいい。
旅先で高倉健がビデオカメラやデジタルカメラを扱っていた。ほんとうは不器用ではないのかもしれない。

2015年2月8日日曜日

ラデュ・ミヘイレアニュ「オーケストラ!」

何年前だろう。早稲田松竹でこの映画が上映されていて観に行きたかったのだが、そのチャンスを逃してしまった。
BSプレミアムで放映された。今度は見逃さなかった。
音楽ものは難しい。
プロの目から見れば、ちゃんと弾いているのか、指揮できているのかは(たぶん)一目瞭然だろう。
もちろん僕にはわからない。仮にアンヌ=マリーが上手に弾けていなくても、メラニー・ロランの美しさに免じて許してあげたいと思う。

2015年2月5日木曜日

熊井啓「忍ぶ川」

加藤剛と栗原小巻が出会い、勝鬨橋あたりから都電に乗って深川めぐりをする。
木場の町は水をたたえている。洲崎はパラダイスだ。
栗原小巻は州崎で生まれ育った。
加藤剛は雪深い東北の出身。
それぞれの人生に暗い影が落ちている。
サユリスト同様コマキストと呼ばれる熱狂的なファンが多くいることがわかる気がした。

2015年2月1日日曜日

川島雄三「洲崎パラダイス赤信号」

芝木好子原作の「洲崎パラダイス」をいちど映画で観てみたかった。
冒頭の勝鬨橋には都電が走っている。
そこからバスに乗って新珠美千代と三橋達也が洲崎弁天町で降りる。木場の少し先、東陽町の手前。洲崎パラダイスという門がある。中と外がそこで分かたれている。
東京メトロ東西線木場駅にほど近い洲崎神社も映しだされる。
川は埋められ、緑道公園となっている。橋のあった道は大門通りと呼ばれ、このあたりの町並みに不似合いなだだっ広い道路が200メートルばかり続いている。
古き下町のなつかしい風景が満載の映画だった。

2015年1月28日水曜日

小泉尭史「博士の愛した数式」

観終わって、よかったなと思える率が高いのが小泉尭史の作品だ。
難解な数学用語が出てくる。しかしそれらに難しさが感じられない。純度を高めれば高めるほど、すっと心に入り込んでくる。学問って本来そういうものなんじゃないかと思えてくる。
シーンがいたってシンプルだ。
博士の家とそこにいたる道、家政婦紹介所、散歩、少年野球、そして数学教師になったルートが教壇に立つ教室(職を失った深津絵里が仕事場を転々とする場面はあるものの)。
ところどころ季節の移ろいを見せる実景が効果的にはさみこまれている。無駄がない。
博士が好きそうな構成だ。

2015年1月26日月曜日

成瀬巳喜男「山の音」

山村聡は1910年生まれだから、公開当時44歳。息子役の上原謙は1909年生まれで学年は同じ。昔の映画ではよくあることだ。
山村聡はその後、僕らの少年時代に接したテレビドラマでいいお父さんを演じた印象が残っているせいか違和感を感じない。
小津作品の原節子にくらべると成瀬映画の彼女はちょっと不幸な感じというか、いい人に徹しきれないところとかどことなく影があっていい。
傑作といわれている川端康成の原作をいちど読んでみたいものだ。

2015年1月19日月曜日

小津安二郎「麦秋」

小津安二郎の名作。
舞台は北鎌倉。横須賀線の70系電車が走っている。80系と70系は外観は似ているが、笠智衆がセミクロスシートの電車に乗っているシーンがあるのでおそらく70系だろう。
僕にとって小津安二郎の映画は、淡々とフィックスの映像が流されていく格調と芸術性が高い世界である反面、ストーリーに波風があまり立たず退屈といえば退屈だ。だからひとつひとつのシーンに目が向くのかもしれないが。
唯一この映画にさざなみを立ててくれるのが杉村春子。ほんとうにいい役者だなと思う。

2015年1月12日月曜日

小津安二郎「秋刀魚の味」

冒頭の工場は川崎あたりだという。
そういえばその後川崎球場があらわれる。太洋ホエールズやロッテオリオンズの試合を何度か観に行ったなつかしい球場だ。
カメラマンの厚田雄春は大の鉄道ファンだったらしい。そういうわけで小津映画には随所に鉄道のシーンが描かれている。
「東京暮色」の五反田や上野、そしてこの映画では池上線の石川台が登場する。今では想像もできないくらい広々とした東京の郊外が見わたせる。
そんな風景が昭和30年代の東京にあった。

2015年1月11日日曜日

山田洋次「幸福の黄色いハンカチ」

何度かテレビで観ていたけれど、じっくり最初から最後まで観るのははじめてだと思う。
武田鉄矢と桃井かおり。
軽薄で世俗的な若者ふたりがこのドラマにとって邪魔ものなんじゃないかとずっと思っていたけれど、今こうして見直してみるととてもいい役割を果たしている。
夕張炭鉱が閉山となった1977年に公開されたことと原作者がピート・ハミルだったことにちょっと驚かされた。
島勇作(高倉健)の服役中も炭鉱の町はにぎわっていた。撮影当時、まだまだ夕張は元気だった。
ピート・ハミルは20代の頃よく読んだ。
当時読んだ本の、ご多分にもれず、あまり憶えていないのだが。
倍賞千恵子がここでも光っていた。

2015年1月3日土曜日

成瀬巳喜男「娘・妻・母」

予告編では7大スター勢揃いとうたっている。
原節子、高峰秀子、森雅之、三益愛子、宝田明、団令子、草笛光子、小泉博、淡路恵子、仲代達矢、杉村春子、上原謙、加東大介、笠智衆。どこからどこまでが7大スターなのかも判然としない豪華キャストだ。
山の手の中流家庭が崩壊していく。
夫に先立たれ、保険で得た100万円をもって実家に戻る長女。こっそり長男に融資をしてもらい雲隠れしたのは妻の叔父。
糸の絡ませ方も巧みだが、成瀬流の細やかな演出が見逃せない。こういう映画はじっくり何度も観るべきである。

2015年1月2日金曜日

神山征二郎「ラストゲーム最後の早慶戦」

最後の早慶戦の舞台となった戸塚球場は西早稲田にあった。
僕らの世代には安部球場という名で親しまれていたと思う。残念ながらそこで野球を観ることはなかった。
日本の野球史をひもとくとそのルーツは学生野球だ。
早慶戦開催の電報を受け、東京に戻る慶應の別当薫が列車の中で喝采の拍手を浴びる。野球のスターといえば職業野球の選手ではなく早稲田、慶應の選手だったことがわかる。
飛田穂洲も日本野球史にその名をとどめる学生野球の指導者だ。柄本明の演技が光る。
この最後の早慶線に傾けた情熱も歴史の中で輝きを放っている。

2015年1月1日木曜日

ロブ・ライナー「スタンド・バイ・ミー」

ゴードン・ラチャンスが好きで何度もこの映画を観ている。
この映画に挿入されるゴーディの空想物語がとてもいい。
おそらくは原作者スティーブン・キングの分身なのだろう。
その才能にずっとあこがれてきた。
ゴーディもクリスもテディもバーンもみんな不幸をかかえた田舎町の少年。
12歳の夏を転機に大人の階段を登る。失うことも多かった。なかでもクリスはゴーディにとってかけがえのない友だった。クリスがゴーディにこの名作をつくらせたのだ。
実はいちばん気になっていたのが不良少年たちのリーダー、エースだ。
やつはどうしたんだろう。