2015年1月28日水曜日

小泉尭史「博士の愛した数式」

観終わって、よかったなと思える率が高いのが小泉尭史の作品だ。
難解な数学用語が出てくる。しかしそれらに難しさが感じられない。純度を高めれば高めるほど、すっと心に入り込んでくる。学問って本来そういうものなんじゃないかと思えてくる。
シーンがいたってシンプルだ。
博士の家とそこにいたる道、家政婦紹介所、散歩、少年野球、そして数学教師になったルートが教壇に立つ教室(職を失った深津絵里が仕事場を転々とする場面はあるものの)。
ところどころ季節の移ろいを見せる実景が効果的にはさみこまれている。無駄がない。
博士が好きそうな構成だ。

2015年1月26日月曜日

成瀬巳喜男「山の音」

山村聡は1910年生まれだから、公開当時44歳。息子役の上原謙は1909年生まれで学年は同じ。昔の映画ではよくあることだ。
山村聡はその後、僕らの少年時代に接したテレビドラマでいいお父さんを演じた印象が残っているせいか違和感を感じない。
小津作品の原節子にくらべると成瀬映画の彼女はちょっと不幸な感じというか、いい人に徹しきれないところとかどことなく影があっていい。
傑作といわれている川端康成の原作をいちど読んでみたいものだ。

2015年1月19日月曜日

小津安二郎「麦秋」

小津安二郎の名作。
舞台は北鎌倉。横須賀線の70系電車が走っている。80系と70系は外観は似ているが、笠智衆がセミクロスシートの電車に乗っているシーンがあるのでおそらく70系だろう。
僕にとって小津安二郎の映画は、淡々とフィックスの映像が流されていく格調と芸術性が高い世界である反面、ストーリーに波風があまり立たず退屈といえば退屈だ。だからひとつひとつのシーンに目が向くのかもしれないが。
唯一この映画にさざなみを立ててくれるのが杉村春子。ほんとうにいい役者だなと思う。

2015年1月12日月曜日

小津安二郎「秋刀魚の味」

冒頭の工場は川崎あたりだという。
そういえばその後川崎球場があらわれる。太洋ホエールズやロッテオリオンズの試合を何度か観に行ったなつかしい球場だ。
カメラマンの厚田雄春は大の鉄道ファンだったらしい。そういうわけで小津映画には随所に鉄道のシーンが描かれている。
「東京暮色」の五反田や上野、そしてこの映画では池上線の石川台が登場する。今では想像もできないくらい広々とした東京の郊外が見わたせる。
そんな風景が昭和30年代の東京にあった。

2015年1月11日日曜日

山田洋次「幸福の黄色いハンカチ」

何度かテレビで観ていたけれど、じっくり最初から最後まで観るのははじめてだと思う。
武田鉄矢と桃井かおり。
軽薄で世俗的な若者ふたりがこのドラマにとって邪魔ものなんじゃないかとずっと思っていたけれど、今こうして見直してみるととてもいい役割を果たしている。
夕張炭鉱が閉山となった1977年に公開されたことと原作者がピート・ハミルだったことにちょっと驚かされた。
島勇作(高倉健)の服役中も炭鉱の町はにぎわっていた。撮影当時、まだまだ夕張は元気だった。
ピート・ハミルは20代の頃よく読んだ。
当時読んだ本の、ご多分にもれず、あまり憶えていないのだが。
倍賞千恵子がここでも光っていた。

2015年1月3日土曜日

成瀬巳喜男「娘・妻・母」

予告編では7大スター勢揃いとうたっている。
原節子、高峰秀子、森雅之、三益愛子、宝田明、団令子、草笛光子、小泉博、淡路恵子、仲代達矢、杉村春子、上原謙、加東大介、笠智衆。どこからどこまでが7大スターなのかも判然としない豪華キャストだ。
山の手の中流家庭が崩壊していく。
夫に先立たれ、保険で得た100万円をもって実家に戻る長女。こっそり長男に融資をしてもらい雲隠れしたのは妻の叔父。
糸の絡ませ方も巧みだが、成瀬流の細やかな演出が見逃せない。こういう映画はじっくり何度も観るべきである。

2015年1月2日金曜日

神山征二郎「ラストゲーム最後の早慶戦」

最後の早慶戦の舞台となった戸塚球場は西早稲田にあった。
僕らの世代には安部球場という名で親しまれていたと思う。残念ながらそこで野球を観ることはなかった。
日本の野球史をひもとくとそのルーツは学生野球だ。
早慶戦開催の電報を受け、東京に戻る慶應の別当薫が列車の中で喝采の拍手を浴びる。野球のスターといえば職業野球の選手ではなく早稲田、慶應の選手だったことがわかる。
飛田穂洲も日本野球史にその名をとどめる学生野球の指導者だ。柄本明の演技が光る。
この最後の早慶線に傾けた情熱も歴史の中で輝きを放っている。

2015年1月1日木曜日

ロブ・ライナー「スタンド・バイ・ミー」

ゴードン・ラチャンスが好きで何度もこの映画を観ている。
この映画に挿入されるゴーディの空想物語がとてもいい。
おそらくは原作者スティーブン・キングの分身なのだろう。
その才能にずっとあこがれてきた。
ゴーディもクリスもテディもバーンもみんな不幸をかかえた田舎町の少年。
12歳の夏を転機に大人の階段を登る。失うことも多かった。なかでもクリスはゴーディにとってかけがえのない友だった。クリスがゴーディにこの名作をつくらせたのだ。
実はいちばん気になっていたのが不良少年たちのリーダー、エースだ。
やつはどうしたんだろう。