2016年12月28日水曜日

ロバート・ゼメキス「ポーラー・エクスプレス」

今年のクリスマスも何となくあわただしく過ぎていった。ゆっくり映画でも観られたらよかったのに。
ちょっと気のはやい話だけど来年のクリスマスに観ようと思っていた映画を観る。
アメリカ人は列車の屋根の上とジェットコースターが大好きなんだな。
娘が小さいころ、サンタさんて本当にいるのと訊かれた。
もちろんいるよ、君の心のなかに。
そう答えた。

2016年12月1日木曜日

大森壽美男「アゲイン 28年目の甲子園」

原作は重松清。
現実の重い足枷を引きずる男たちが28年の歳月を経て、甲子園に挑む。
33試合連続安打の高橋慶彦がいる。セーブ王の角盈男がいる。
キャストの中には実際に甲子園をめざした元高校球児もいるという。撮影で踏んだ甲子園の土の感触はさぞかし感慨深いものだったのではないかと思う。
さわやかな中年男子のドラマだ。

2016年11月25日金曜日

レジス・ロワンサル「タイピスト!」

以前、早稲田松竹で予告編を見た。
しばらく忘れてたけどようやく観ることができた。
田舎から出てきた女の子のスポ根物語。ちょっとめんどくさい男との恋愛ドラマがからみつく。
タイプライターの早打ち世界大会ってほんとうにあったのどうか知らないけれど、1950年代のお話だから、それくらいのことはあっていい。それにしても50年代のファッションってとてもおしゃれだ。
オープニングのアニメーションもいい。音楽もいい。
やっぱり思い出してよかった。

2016年11月24日木曜日

五社英雄「226」

豪華キャストによる作品だ。
これだけのスターがほんとうに必要だったのだろうか。
事件そのものはすぐはじまって、すぐ終わる。26日はあっという間に終わる。そこからが長い。キャストが豪華なせいもある。男性陣はともかく、女優も粒ぞろいである。
なんだけどなあ。

2016年11月21日月曜日

マーティン・スコセッシ「アビエイター」

ケイト・ベッキンセイルの出演している映画をさがしていたら、この映画が引っかかった。
10年ほど前にアメリカの実業家ハワード・ヒューズの半生を綴った映画として公開された。ヒューズも莫大なお金を投じて映画製作をしたそうだが、この映画も相当な費用がかかっている(ように見える)。あの巨大な飛行機ハーキュリーはまさか実写ではあるまい。ミニチュアでもないだろう。C.G.にしてはよくできている。
いろいろよくできているのでケイト・ベッキンセイルが目立たなかったではないか。

2016年11月10日木曜日

テイ・ガーネット「郵便配達は二度ベルを鳴らす」

原作はジェームズ・M・ケインの小説(1934年)。
幾度か映画化されているせいもあるだろう、その魅力的な邦題だけは記憶に残っていた。お名前だけは存じ上げております、と答える以外に術のないまったく知らない人みたいに。
ラストシーンでどうしてこのような題名が付けられたのかがわかる。ずいぶんまわりくどい話だなとは思う。
もちろん最後まで郵便配達員はやってこない。

2016年11月8日火曜日

野村芳太郎「鬼畜」

東武東上線の男衾から物語ははじまる。
舞台は川越の印刷屋。
東京タワーや上野の70年代後半の風景に出会える(松本清張が参考にしたという実際の事件はその20年ほど前に起きている)。もちろん景色を楽しんでいるどころじゃない。
印刷屋の店主は長男の死に場所をさがして北陸を旅する。昔仕事で訪ねた福井の海がなつかしい。
父親をかばう長男利一はまさに「砂の器」の秀夫の父千代吉(加藤嘉)のようだった。

2016年11月4日金曜日

蔵原惟繕・深作欣二「青春の門」

五木寛之の大河小説『青春の門』は幾度か映画化、ドラマ化されている。
今回観たのは1981年公開、信介役は佐藤浩市。彼のデビュー作である。
菅原文太、若山富三郎、松坂慶子とキャストも豪華だ。
北九州には巨大な製鉄所があった。
直方、田川、飯塚あたりは網の目のように鉄道が敷かれ、蒸気機関車が闊歩するように走っていた。
日本の青春時代、筑豊炭田はまさにエネルギーの源だった。

2016年11月1日火曜日

黒木和雄「父と暮らせば」

原爆ドームをはじめて見たのは高校卒業間際の3月だった。40年近く前のことだ。
原作は井上ひさしの戯曲。まだ読んでいない。
ヒロシマについて、僕はあまりに知らなさ過ぎた。
「黒い雨」にしろ、この映画にしろ観ておくべきだった。原爆ドームを見る前に。
原子爆弾の物理的破壊力が悪とされている。放射能汚染による身体的な被害も深刻だ。それにもまして人の心を蝕んでいく。生き残った娘と生き残れなかった父がそれを語ってくれる。
もともとが演劇だったこともあり、出演者はごくわずか。セットもきわめてシンプル。
好きな映画だ。

2016年10月30日日曜日

石井裕也「舟を編む」


ついこのあいだ三浦しをんの『舟を編む』を読んだばかりだと思っていた。
もう4年以上経っている。はやいものだ。
原作を読んだ当初、馬締に松田龍平のイメージはなかった。香具矢も宮崎あおいではなかった。
でも観終えてしまえばそんなことはどうでもよくなる。
前衛音楽家和賀英良はその後、国語学者になって辞書の監修者になったのだとどうでもいいことを思ってしまった。

2016年10月26日水曜日

成島出「ふしぎな岬の物語」

一昨年10月千葉の館山を訪れたとき、ポスターでロケが房総半島各地で行われたことを知った。
岬カフェはJR内房線浜金谷駅に近いらしい。
そういった先入観があるせいか、映し出される映像はたしかに房総の海だ。久里浜からフェリーに乗るとわかる。たしかにあるポイントから東京湾の海は房総半島の海に変わるのだ。加山雄三じゃないけれど、俺の海よと叫びたくなるような海に変わるのだ。
主役は吉永小百合だが、語りべのようにたたずんでいるだけだ。事件もなく、エピソードにもかかわらない。脇が映画を動かしていく。剣を抜かないどころか鯉口に手もかけさえしない剣豪のようだ。
こんど浜金谷に行って、さすけ食堂でアジフライを食べたら、岬カフェまで歩いてみよう。

2016年10月25日火曜日

ドミニク・セナ「ホワイトアウト」

ケイト・ベッキンセイルで検索していたら2009年のアメリカ映画が見つかった。しかもアマゾンのプライム会員だと0円で観られるということでついつい観てしまった。
南極大陸で起きた殺人事件。その50年前の旧ソ連貨物機墜落事故が絡む。
あと何日かで闇に閉ざされる南極。
以前観た韓国映画、ソン・ガンホ主演の「南極日誌」を思い出した。

2016年10月21日金曜日

川島雄三「とんかつ大将」

「てんやわんや」で頼りない主人公犬丸順吉を演じていた佐野周二が一転、実業家政治家の子息で貧しい人々をたすけて生きる青年医師に扮する。その設定だけでも破天荒なのにストーリーも急転回をくりかえす。もう目茶苦茶だ。
戦後間もない1947年公開の作品。当然テレビもなかった。豊かさもなかった。もちろん娯楽もなかった時代に世の中に希望と明るさを与える映画があったんだなと思う。
ロケ地は浅草界隈だろうか。下町の空が大きい。
主人公荒木勇作の大好物はとんかつ。折詰されたとんかつのなんとうまそうなことか。

2016年10月19日水曜日

吉田大八「紙の月」

小学生の頃、近くに貨物線が走っていた。架道橋があり、その壁面に軟式野球のボールをぶつけてキャッチする。遊び相手が見つからないときはいつもこんなことをして過ごしていた。
ある日のこと、そのガード下にお金が落ちていた。拾ってみると一万円札だった。
興奮して家に持ち帰り、母に知らせ、交番に持って行った。50年近く昔の子どもにとって一万円札は大金だった。
落とし主は見つからず、一年後警察から連絡があり、その大金は僕のものになった(たぶん貯金したように記憶している)。
もしはなからあのとき横領してたら僕の人生は変わっていたかもしれない。
この映画を観て、そんな昔のできごとを思い出した。

2016年10月12日水曜日

豊田四郎「泣蟲小僧」

林芙美子の初期の作品である「泣蟲小僧」が映画化されていた。
昭和9年に発表され、13年に映画が公開されている。作者が世に広く知られるようになったことがうかがえる。
原作は少し間の抜けた少年が姉妹の間をたらい回しにされる話だが、フィルムを観る限り、しっかりしたいい子役だ。
その啓吉が赤の他人である尺八のおじさんの寄宿先でひと晩過ごした翌日、物干しの上で箱根の山を歌う。すぐそばの高架線を三両編成の電車が走っている。いい風景だ。
貧しさを明るく笑って生きていく林芙美子の世界はこんな昔からちゃんと描かれていたんだなと思う。

2016年10月11日火曜日

千葉泰樹「下町(ダウンタウン)」

以前、国立近代美術館フィルムセンターでの上映を見逃してしまった映画。
林芙美子の短編「下町」は先行きの見えない主人公りよの生きざまを持ち前の明るさで描き上げている秀作だ。映画化されていると知って、フィルム上のりよはどう描かれているのか、ぜひいちど観てみたいと思っていた。
神保町シアターで「吉屋信子と林芙美子 女流作家の時代」が特集されている。「稲妻」「放浪記」「泣蟲小僧」と並んで「下町」もプログラムされていた。
りよを演じるのは山田五十鈴、鶴石は三船敏郎。
思っていた以上にしっかり前を向いて(おそらく荒川土手だろう)歩いていた。

2016年10月8日土曜日

市川崑「私は二歳」

医師で育児評論家の松田道雄が書いた岩波新書『私は二歳』を和田夏十が脚色し、監督は市川崑。
3年後に公開されるドキュメンタリー「東京オリンピック」の片りんをところどころに見い出すことができる作品だ。
この映画は昭和37年公開だから、おそらく二歳の太郎は僕とほぼ同世代だろう。
きっと今頃、老後の生活のことや最近血圧が高めなんだよねとか歳相応の悩みを持っているにちがいない。
歳はとりたくないものだ。

2016年10月7日金曜日

ピーター・チェルソム「セレンディピティ」

以前BSで録画した映画を観た。
何の予備知識もなく、暇にまかせて観た。
どこかで見たことのある女優。見たことがあるといっても青山通りですれ違ったとか銀座の蕎麦屋にたまたま居合わせたとかじゃない(あたりまえだ)。
十年以上前に観た「ヴァン・ヘルシング」に出ていた女優ケイト・ベッキンセイルだ。
まさにセレンディピティ。僕にとって運命の女優かもしれない。

2016年9月23日金曜日

澁谷實「てんやわんや」

獅子文六の『てんやわんや』を読んだ。
これは映画化に向いたどたばた喜劇だと思った。
そうしたら、やはり映画化されていた。
昭和25年。主役の犬丸順吉は佐野周二。思っていたよりいい男だった。
花輪兵子は淡島千景。奔放なキャラクターとして小説では描かれているが、思っていたよりきれいな人だった。
宇和島では藤原鎌足がいい味を出しながら饅頭を食べていた。

2016年4月19日火曜日

渡辺邦男「異国の丘」

シベリアに抑留されていた兵士たちの間で歌われた曲が「異国の丘」である。
作詩の増田幸治も抑留者だったという。
終戦後最後まで内地に戻れなかったのがシベリア抑留者だった。家族は何年も不安なまま日本で夫の、父の、息子の帰還を待った。
まさにこの映画のように。
林芙美子の短編「下町」を思い出した。
夫のシベリアからの帰りを待つ妻りよが主人公だ。行商で静岡のお茶を売って歩いた。四つ木あたりが舞台だった。

2016年4月17日日曜日

今村昌平「黒い雨」

井伏鱒二の『黒い雨』を読んだのは6〜7年前だろうか。
おじさんとおばさんの役は北村和夫、市原悦子だった。ぴったりの役どころだ。
それにもまして田中好子がいい。
1989年公開。もうスーちゃんではかった。
美術も素晴らしい。爆心地の悲哀を見事なまで描き出している。
今村昌平、渾身の作品といえよう。

2016年4月14日木曜日

成瀬巳喜男「怒りの街」

先日観た「薔薇合戦」と同じく原作は丹羽文雄。同じく原作は読んでいない。
ロケシーンが多い。銀座あたりはわかるけれど、ほとんど場所がわからない。
戦後の混乱期が映し出されている。
三島由紀夫『青の時代』でとりあげられた光クラブ事件も言及されている。
成瀬映画の中では失敗作と評価されることが多いという。
すべての映画で成功する映画監督なんていない。

2016年3月22日火曜日

成瀬巳喜男「薔薇合戦」

選抜高校野球がはじまった。
東邦対関東一、札幌一対木更津総合など明治神宮大会に出場した秋の地区代表どうしの戦いを見てみたいと思ったが、まさか初戦で顔を合わせるなんて。
冒頭有楽町の駅前が映る。
銀座あたりを舞台にした化粧品会社のドラマなのだろう。
三宅邦子、若山セツ子、桂木洋子の三姉妹を描いているが、脇の男優陣もいい。鶴田浩二、大坂志郎、岩井半四郎、永田光男。
鶴田浩二が鶴田浩二らしい実直な男を演じている。

2016年3月21日月曜日

熊切和嘉「夏の終わり」

原作は瀬戸内晴美だという。
中野の古い町並みが見える。ロケ地は兵庫や淡路島あたりだという。最初はオープンセットかと思ったが、これはあきらかに実在する町だ。
加古川。
阪神工業地帯を支えてきた町が昭和のまま残されてきたのだろう。
また訪ねてみたい町が増えてしまった。

2016年2月25日木曜日

ジョン・マルーフ、チャーリー・シスケル「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」

下町探検隊のKさんが先月観たという「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」を上映している映画館を探していた。
ユジク阿佐ヶ谷で観ることができた。
インタビュー映画でヴィヴィアン・メイヤーという写真家の生涯の、ほんの少ししかたどりつけていない。そのもどかしさがますます彼女の存在をミステリアスにする。
オークションで手に入れた大量のネガからこの映画ははじまる。未現像のフィルムもあったという。
銀塩写真だからいいんだ。大量の画像データの入ったハードディスクだったらPCでスクロールしておしまいだ。
フィルムに露光して、現像し、紙に焼くからこそ写真なんだ。
今となっては無駄と思えるプロセスがこの映画の証言を響かせている。

2016年2月4日木曜日

勅使河原宏「砂の女」

安部公房の『砂の女』を読んだのは大学生の頃か。
口の中がじゃりじゃりした記憶がある。
小説が刊行された2年後、映画化されていた。原作にかなり忠実な映画だ。
砂は何を表現しているだろうか。さまざまな想像を駆りたてる不気味な大作である。

2016年1月12日火曜日

富野由悠季「機動戦士ガンダムⅢめぐりあい宇宙」

連休をいいことにDVDをたて続けに観てしまった。
やっぱりいいね、ガンダムは。
特にこのⅢでは戦闘シーンが多く、戦争について考えさせられる。
モビルスーツ戦、戦闘機戦があって、最後は白兵戦になる。宇宙世紀になってもそんな戦闘なのかとツッコミたくもなるのだが、20世紀少年の心をとらえて離さない。
幕末を官軍側から見た小説がある。幕府側から見た物語もある。ジオン側から見たガンダムもいちど観てみたい。

2016年1月11日月曜日

富野由悠季「機動戦士ガンダムⅡ哀・戦士」

この作品はよくできていると思う。
第2話にあたるこのアニメーションでは戦うものたちの悲哀がクローズアップされている。敵味方はこの際関係ない。
特にジオン公国がまだ追いつめられないⅡでは、戦火に消えていく者たちにフラットな視線を投げかけられる。
ジオンのモビルスーツがだんだん弱くなっていく。このあたりのシナリオもきめ細かい。

2016年1月9日土曜日

富野由悠季「機動戦士ガンダムⅠ」

アニメーションの最初が「鉄人28号」だったせいか、ロボットものが好きだ。
「鉄腕アトム」も好きだったが、誰かが操縦するロボットに断然憧れた。
ガンダムの場合、ロボットではなくモビルスーツという。動きもきめ細かく、人間が戦っているようだ。コンピュータも駆使されているにちがいない。
富野由悠季の、映像づくりに対する頑とした姿勢を随所に見ることができる。