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2025年4月18日金曜日

村山新治「旅路」

中学の頃。よせばいいのに生徒会の役員にさせられた。僕が通った中学校は他にあまり例を見ない学園祭があった。たぶん、教育労組懇談会という組合(日教組)とは少し性格を異にした組織に加入する教員が多かったせいだろうと思っている。生徒の自主独立をめざしたのかもしれない。
その学園祭で他の中学校の生徒会役員を呼んでディスカッションするといったイベントが企画された。もうそれだけで生徒の自主独立じゃないよね、自主独立を求める教師たちの思惑だよね。
で、その会合にひときわ美しい女生徒がいたのだ。恋に落ちるとかそんな余裕すら感じさせない圧倒的な美人だった。僕はただでさえ人前で声を出すことなんてなかったから、彼女と話すこともなく、当時の生徒会長と他校の生徒会とのやりとりで終わった。
2年後、高校にすすむ。なんとその美人がいるではないか。クラスは違うが、何組かをつきとめて名簿で調べると彼女は同じ区内の中学校出身でその名はサクマヨシコだった。中学時代と同様、僕は見知らぬ人に話しかけるのが苦手で結局彼女と会話する機会はなかった。廊下ですれ違ったとき、彼女が少しでも、この人知ってるかもしれないみたいな視線を投げかけていれば別だが、そんなこともなかった。
高校を終え、大学に進学した。同じ高校から10数人がすすんだ。そのなかにサクマヨシコがいた。
一度だけ彼女と会話したことがあるような気がしている。大学生になってから、同じ高校でしたよねみたいな視線を投げかけられて声をかけたような記憶もある。仮にあったとしてもどのみちそれっきりである。

昭和42年の映画を観る。監督は東映で現代劇中心に撮っていた村山新治である。阿佐ヶ谷ラピュタで特集されていた。三國連太郎の「大いなる旅路」のオマージュであろうか。
鉄道員仲代達矢とその妻佐久間良子。佐久間の美しさが引き立つ。今だと石原さとみか。悠木千帆がいい演技で盛り立てていた。鈴木やすしも。

2025年4月8日火曜日

相米慎二「ラブホテル」

20代の半ばでテレビコマーシャルの制作会社に潜りこんだ。ほんの駆け出しの頃、実相寺昭雄監督の仕事をすぐ傍で見せてもらったことがある。
ラッシュ編集を終え、制作進行の先輩が「監督、ナレーターはどうしましょうか」と訊く。監督は「ノウちゃんがいいんじゃないか」ということですぐに決まった。ノウちゃんとは俳優の寺田農。実相寺監督の映画にも何本か出演していたらしい(当時はそんなことすら知らなかった)。
ノウちゃんの語りは朴訥でアナウンサーみたいに喋るプロのナレーターとはまったく異なっていた。おそらくねらい通りだったのだろう、監督はその語りを2~3テイク重ねてOKを出した。
寺田農は本来不器用な俳優なのかもしれない。あるいは不器用を演じることができる稀有な人なのかもしれない。相米慎二監督のこの映画を観て、強く感じた。

2024年12月10日火曜日

森崎東「時代屋の女房」

阿佐ヶ谷ラピュタまで映画を見に行く。森崎東監督の「時代屋の女房」だ。十年以上前に見ているが、もう一度。
時代屋はかつて大井町に実在した古物商の店である。ロケも主に大井町駅辺りで行われており、懐かしい大井町の風景に出会える。大坂志郎がクリーニング店の店主を演じている。アイロンがけする大坂の後ろを横須賀線の電車が通り過ぎる。西大井駅ができる前のことである。
夏目雅子が買い物する魚屋は二葉一丁目の、大井町線のガード下にあった商店街だ。今は区画整理され、武蔵小山に通じる広い通りになってしまった。

2024年1月8日月曜日

黒澤明「生きる」

久しぶりに映画を観た。
いやいや映画をまったく観ていないわけではない。テレビで放映される「インディ・ジョーンズ」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「ホーム・アローン」などは毎度毎度楽しみに観ている。先日も「千と千尋の神隠し」を観たばかりだ。
NHKで黒澤明監督「生きる」を放映していた。志村喬の好演で評価の高い名作であるが、観るのははじめてである。志村の演技にましてすごいと思わせたのは斬新な構成である。映画の後半、一気にたたみかける編集の素晴らしさ。さすが世界のクロサワである。

2023年3月18日土曜日

高畑勲「柳川堀割物語」

柳川は町の中に長大な水路を持っている。干潟の上にできたこの土地は真水を得ることが難しい。
堀割の歴史は古いという。江戸時代になって現在の水路は整備されたらしいが、堀割はそれ以前からあったという。
川から水を引き、貯め、飲料水、生活用水として町で共有する。水はゆっくり海へと流れていく。翌朝になると堀割には新しい水が貯えられる。飲料水を汲むのはどの家庭でも早朝の仕事だったという。野菜や食器も洗う。汚水は流さない。洗濯した汚水は別に掘った穴に流す。定期的に水を抜いて、水草やゴミを取り除く。棲みついていた鮒や鯉などは市場に出し、あまったものは住民でわけ合う。これは水落としといって、祭礼なども営まれた。共同体のルールは自ずとできあがっていた。
高度経済成長期には柳川も上水道が整備された。堀割は荒れた。住民たちの、水の大切さに対する思いが希薄になってきたのが原因ではないかと。そして1977(昭和52)年、幹線水路以外を埋め立てて下水道を整備する計画が生まれる。汚い、臭い、蚊が大量発生するなど環境は悪化していた。
この計画に意を唱えた市職員がいた。当時市下水路係長広松元である。広松は上水道の役割を終えた堀割も地盤の維持や洪水時の排水路として機能することを主張。地盤が軟弱な干潟をコンクリートやアスファルトでおおい、農業用に地下水を汲み上げれば、確実に地盤沈下が起こる。また堀割は川であると同時に池でもある。洪水時の増水を一時的に貯め込むことができる。
かくして、柳川の堀割は再生したのである。
高畑勲が柳川に出向いたのは、アニメーション映画の舞台としてのロケハンだったという。そこで広松の話を聞き、ドキュメンタリー映画の制作を思い立ったという。
充実した2時間45分だった。

2023年3月15日水曜日

滝沢英輔「しろばんば」

神保町シアターで芦川いづみが特集されている。
あまりくわしく知らない女優であるが、「しろばんば」が上映されるというので観に行った。
原作は小学生か中学生の頃に読んでいる。伊豆湯ヶ島の山間の村が思い出される。
1962(昭和36)年公開。伊豆で撮影されたかどうかはわからないが、青々とした山々、きらきら光る川、日焼けした少年たち。モノクロームの映画なのに色合いを感じる。
北林谷栄が婆さん役で出演している。当時まだ50歳くらいだろうが、すっかり老婆になり切っている。義理の孫を溺愛するいい婆さんだと思う。

2023年1月19日木曜日

長崎俊一『西の魔女が死んだ』

梨木果歩の原作を読んだのは20年前くらいだろうか。
きっとこういう話は長女が好きだろうと思って、すすめてみたところたいそう気に入ったようである。
小学校の5年生か6年生か、たぶんそんな年頃だったと思う。
長女の本棚にはその後、『ピスタチオ』『水辺にて』『村田エフェンディ滞土録』などが並ぶ。
映画ができたのは知っていたが、なかなか観る機会を得ず、先日テレビでようやく観た。
ロケ地は南アルプス、八ヶ岳のふもとであるらしい。
清々しい風を感じる映画だった。

2022年4月29日金曜日

宮崎駿「魔女の宅急便」

もう何度も何度も観ているのに、テレビで放映されるとついつい視てしまう。
子どもの弱さが哀しくて、せつなくて、少しだけうれしい映画だ。
公開されて30年以上経つというのにその読後感は変わらない。
古い映画が好きなのは、つくり手の「若さ」に出会えるからだ。

2022年4月23日土曜日

馬場康夫「私をスキーに連れてって」

1987年は今から35年前。
昔といえば昔だが、出演者の多くと自分が同じ世代であると思うとそう遠くない昔に思えてくる。
スキーは流行っていいたけれど、僕は誰かをスキーに連れて行ったこともなければ、連れて行かれたこともない。いちどもスキーをしたことがない。
三上博史、沖田浩之、原田貴和子がアマチュア無線のトランシーバーで交信するシーンがある。
この映画によってアマチュア無線ブームが再燃したと言われているが、そうだったのかなあと思う程度。
たしかに携帯電話のなかった時代、無線は便利だったろうと思う。

2022年1月17日月曜日

野村芳太郎「影の車」

ラピュタ阿佐ヶ谷で松本清張特集。
加藤剛演じる主人公浜島は南房総千倉町瀬戸の出身(これは映画だけのオリジナルな設定であるらしい)。
瀬戸は千倉駅周辺の集落で大きな砂浜がある。
僕が幼少の頃から訪ねてきた七浦、白間津は千倉町でも白浜町に接するはずれ。
瀬戸と聞くと千倉町の中心部というイメージがある。
もちろんロケ地は千倉ではなかろう(瀬戸に磯釣りをするような場所はないと思う)。
北陸のイメージが強いが、それは「ゼロの焦点」「鬼畜」など、野村芳太郎の観過ぎかもしれない。
岩下志麻扮する小磯泰子と浜島は幼い頃、千倉町で出会い、都心のベッドタウンの路線バスで再会する。
野村芳太郎、加藤剛、岩下志麻とくれば、この先どんな事件が起こるのか、固唾をのんで見守るしかない。
放っておけば単なる不倫ドラマである。
事件はいつどうやって起こるのか。
少年時代の重い記憶を引きずって生きる加藤剛。
「点と線」や「砂の器」のように犯人を追いつめる映画ではなく、追いつめられた者が犯罪を犯す心理サスペンスドラマだ。
原作も読んでみたくなった。

2022年1月16日日曜日

中平康「あいつと私」

作詩家のなかにし礼が亡くなって1年。
先日BSTBSで追悼番組を放映していた。
なかにし礼といえば、石原裕次郎との出会ったエピソードが知られている。
当時の写真で見る石原裕次郎はすでに貫禄十分。
僕らの世代で石原裕次郎といえば、ドラマーやボクサーというより、刑事である。
なかにし礼と出会った裕次郎はすでに刑事っぽさがあったのではないかと思う。
昭和36年公開のこの映画ではまだまだドラマーに近いが、育ちのよさが色濃く描かれている役である。
おおらかでやんちゃな裕次郎。
時代が求めていたのはそんな裕次郎だったのだ。

2022年1月7日金曜日

古沢憲吾「アルプスの若大将」

1966年の作品である。
高度経済成長の最中、豪華なヨーロッパロケを敢行している。
今なら超豪華な大作でもないかぎり、そうやすやすと海外ロケはしないだろう。
おそらく映画がテレビに凌駕されていたであろう時代に、である。
昔の映画はテレビドラマをつくるように短期間でつくられていたと思う。
みんながせっせと映画をつくり、消費していた。
ある意味ではいい時代だった。
青大将田中邦衛はこの作品でもかっこいいスポーツカーで東京のなつかしい風景を紹介してくれていた。

2022年1月5日水曜日

小林恒夫「点と線」

ついこのあいだまで「のりもの映画祭」という特集を組んでいたラピュタ阿佐ヶ谷。
新年第一弾の企画は松本清張である。
松本清張原作の映画といえばこれだ。
テレビドラマで視ていたせいか、映画も観ていたつもりだった。
高峰三重子、山形勲…、やはり観ていない。
この、不朽の名作を観ていなかった。
それにしても松本清張特集になったもの、まだまだ「のりもの映画祭」を色濃く残しているラピュタ阿佐ヶ谷であった。

2022年1月2日日曜日

野村芳太郎「五瓣の椿」

原作は山本周五郎のミステリー。
時代劇になってはいるが、現代劇でもおかしくない普遍性を持っている。
周五郎の代表作と言ってもいいほどの名作だ。
この映画のほか、テレビドラマとしても何度か制作され、放映されている。
ドラマ版をいくつも視たわけではないが、多くの人が野村芳太郎監督、岩下志麻主演のこの映画を高く評価する。
野村と岩下、さらには脇役の一人ひとりにいたるまで、このスタッフ、キャストでなければできなかった完成度の高い映画である。

2021年12月18日土曜日

市川準「トキワ荘の青春」

市川準はCM制作会社の演出だった。
先輩ふたりと独立してフリーランサーになったとき、彼の作品集リールに収められたフィルムはほんのわずかだったと聞いている。
厳密に言えば、制作会社時代の市川は演出助手だった。
それでも彼には独自の企画力=人間観があった。やがてCMディレクターとして無二の存在になる。そしてずっと昔からつくりたかった映画の世界に。
市川準の道のりは決して平坦ではなかった。
この映画で描かれる漫画家志望の若者たちと同じように。

2021年11月8日月曜日

熊谷久虎「指導物語」

定年も間近な老機関士が帝国陸軍鉄道連隊の機関特業兵の運転指導にあたる。
不器用な老機関士と若い機関特業兵の、やはり不器用に心を通わせる。
1941年10月公開。
太平洋戦争に突入する直前、国民の戦意高揚を担った作品であることは明らかであるが、不器用なふたりは観ていて心があたたまる。
佐倉駅と千葉駅が登場する。海岸線をC58が走り抜けていく。房総半島だろうか。
小学生の頃、「すばらしい蒸気機関車」という記録映画を観たことを思い出した。

2021年11月7日日曜日

森川時久「童謡物語」

吉村昭『蜜蜂乱舞』が原作。
養蜂のことをこの本を通じて知った。
養蜂には定置養蜂と移動養蜂があり、花を求めて全国を旅する後者は莫大な労力とコストがかかるため、減少しているらしい。
ドラマは九州から北海道まで1年のうち7ヶ月を費やして蜂蜜を採取する家族の物語である。
蜜蜂は暑さにも寒さにも弱く、またスズメバチなど天敵もいる。
無事に全国を走りまわって一定量の蜂蜜を得ることは並大抵のことではない。
原作もそうだが、映画でも蜜蜂と暮らす縦糸にさまざまな人間ドラマを横糸にして展開していく。
主人公俊一、妻弘子(これは原作の主人公伊八郎とその妻利恵の長男とその妻の名である)は小学生の息子と弟子の清司と旅を続ける。
行った先の学校に転校生として迎え入れられる覚は原作には登場しないが、地元の子どもらのなかで儚い小学生時代を過ごす少年の視点がいい味付けになっている。
それにしても第一次産業に従事する井川比佐志はいい。
なにものにも代えがたい役者だ。

2021年11月2日火曜日

瀬川昌治「喜劇急行列車」

ラピュタ阿佐ヶ谷で「のりもの映画祭出発進行!」なる特集がはじまった。
長距離列車の旅でさまざまな事件、というの構図は古くからある。
獅子文六原作の「特急にっぽん」でもおなじみだ(もちろんこの映画も特集に組まれている)。
このあいだ観た「拝啓天皇陛下様」でも好演していた渥美清。
動きが細かくしきりに笑いを取りにいく。あざとい印象を受けるが、それはフーテンの寅さんという威風堂々たるベテラン喜劇役者を知っているからかもしれない。
鈴木やすし、関敬六、楠トシエ、Wけんじ、三遊亭歌奴と喜劇に欠かせない脇役をそろえ、佐久間良子、大原麗子とキャストも豪華だ。
舞台はブルートレイン。
長崎・佐世保行きの寝台特急さくら、そして日豊本線まわりで東京-西鹿児島を結んだ寝台特急富士。
残念ながら、寝台列車で九州に行くことはなかった。

2021年9月3日金曜日

野村芳太郎「拝啓天皇陛下様」

阿佐ヶ谷ラピュタの長門裕之特集でもう一本観たかった映画がこれだ。
渥美清がいい、長門裕之もいい。なににもましてふたりの友情が素晴らしい。
配役もよかった。西村晃、加藤嘉、左幸子、桂小金治、藤山寛美、穂積隆信、多々良純、清川虹子、森川信、上田吉次郎、中村メイコ…。
それぞれの脇役がいい仕事をして、この友情物語をしっかりと支えていた。

2021年8月20日金曜日

今村昌平「豚と軍艦」

ラピュタ阿佐ヶ谷で長門裕之を特集している。
残暑厳しいなか、訪ねてみる。
終戦後まもない横須賀を舞台に破滅的に生きるチンピラ役が長門裕之。
横須賀の町は知らないけれど、知っていたとしたら懐かしい風景に出会えたに違いない。
養豚場のはるか向こうに灯台が見えていた。
観音埼灯台であろう。
木下恵介「喜びも悲しみも幾年月」を思い出した。