2023年3月18日土曜日

高畑勲「柳川堀割物語」

柳川は町の中に長大な水路を持っている。干潟の上にできたこの土地は真水を得ることが難しい。
堀割の歴史は古いという。江戸時代になって現在の水路は整備されたらしいが、堀割はそれ以前からあったという。
川から水を引き、貯め、飲料水、生活用水として町で共有する。水はゆっくり海へと流れていく。翌朝になると堀割には新しい水が貯えられる。飲料水を汲むのはどの家庭でも早朝の仕事だったという。野菜や食器も洗う。汚水は流さない。洗濯した汚水は別に掘った穴に流す。定期的に水を抜いて、水草やゴミを取り除く。棲みついていた鮒や鯉などは市場に出し、あまったものは住民でわけ合う。これは水落としといって、祭礼なども営まれた。共同体のルールは自ずとできあがっていた。
高度経済成長期には柳川も上水道が整備された。堀割は荒れた。住民たちの、水の大切さに対する思いが希薄になってきたのが原因ではないかと。そして1977(昭和52)年、幹線水路以外を埋め立てて下水道を整備する計画が生まれる。汚い、臭い、蚊が大量発生するなど環境は悪化していた。
この計画に意を唱えた市職員がいた。当時市下水路係長広松元である。広松は上水道の役割を終えた堀割も地盤の維持や洪水時の排水路として機能することを主張。地盤が軟弱な干潟をコンクリートやアスファルトでおおい、農業用に地下水を汲み上げれば、確実に地盤沈下が起こる。また堀割は川であると同時に池でもある。洪水時の増水を一時的に貯め込むことができる。
かくして、柳川の堀割は再生したのである。
高畑勲が柳川に出向いたのは、アニメーション映画の舞台としてのロケハンだったという。そこで広松の話を聞き、ドキュメンタリー映画の制作を思い立ったという。
充実した2時間45分だった。

2023年3月15日水曜日

滝沢英輔「しろばんば」

神保町シアターで芦川いづみが特集されている。
あまりくわしく知らない女優であるが、「しろばんば」が上映されるというので観に行った。
原作は小学生か中学生の頃に読んでいる。伊豆湯ヶ島の山間の村が思い出される。
1962(昭和36)年公開。伊豆で撮影されたかどうかはわからないが、青々とした山々、きらきら光る川、日焼けした少年たち。モノクロームの映画なのに色合いを感じる。
北林谷栄が婆さん役で出演している。当時まだ50歳くらいだろうが、すっかり老婆になり切っている。義理の孫を溺愛するいい婆さんだと思う。

2023年1月19日木曜日

長崎俊一『西の魔女が死んだ』

梨木果歩の原作を読んだのは20年前くらいだろうか。
きっとこういう話は長女が好きだろうと思って、すすめてみたところたいそう気に入ったようである。
小学校の5年生か6年生か、たぶんそんな年頃だったと思う。
長女の本棚にはその後、『ピスタチオ』『水辺にて』『村田エフェンディ滞土録』などが並ぶ。
映画ができたのは知っていたが、なかなか観る機会を得ず、先日テレビでようやく観た。
ロケ地は南アルプス、八ヶ岳のふもとであるらしい。
清々しい風を感じる映画だった。

2023年1月4日水曜日

杉田成道「優駿ORACION」

去年録った映画を観る正月。
宮本輝原作のこの映画は公開当時、本物のダービー馬メリーナイス(1987年)がモデルになったと話題になった。
モデルといってもメリーナイスの生涯がオラシオンと重なるわけではなく、撮影時のモデルということだ。つまりメリーナイスがオラシオン役として出演したのである。
メリーナイスとコンビを組んだ騎手の根本康広(現・調教師)も出演している。ちゃんと演技もしている。
緒形拳・直人親子が生産者の親子役で出演している。ブラッドスポーツと呼ばれる競馬の世界を意識したキャスティングなのだろうか。

2023年1月3日火曜日

アーサー・ヒラー「夢を生きた男/ザ・ベーブ」

去年はヤクルトスワローズの村上宗隆がシーズン56本塁打をマークし、メジャーリーグでは大谷翔平が規定投球回数と規定打席数をクリアして、投手として15勝、打者として160安打、34本塁打を記録した。ともに規格外の選手で規格外の活躍だった。
大谷といえば、ベーブ・ルースと比較されることが多い。そもそもが投打両方で活躍した選手がいないからだ。
昨年録りためた映画をまとめて観るのが正月の暇つぶしになっている。
この映画でベーブ・ルースはホームラン打者としてだけでなく、投手としても登場する。
元祖二刀流を描いた貴重な作品だ。