2019年4月21日日曜日

黒澤明「用心棒」

三船敏郎になにかおもしろいことをやらせるというのが、黒澤明の大きなテーマのように思える映画がある。
この映画の三船もいたずら小僧のような役柄をうまくこなして、監督と観客の期待に応えている。
日本を代表する俳優ではあるものの、三船敏郎はけっして演技派ではない。
こう言ってしまっては申し訳ないが、存在感の役者である。
芝居としては仲代達矢の方が真に迫っていると思う。
それでもどちらを主役にするかといえばやはり三船なのである。
うまく言えないけれどそれが黒澤映画なのだ。

2019年4月20日土曜日

ジョン・フォード「タバコ・ロード」

その昔同名の小説を読んだことがある。
シャーウッド・アンダースンが作者だと思っていたが、これは記憶違いで原作はアースキン・コールドウェルだ。
内容は記憶にない。
1930年代、開墾によって発生した砂嵐で多くの農地が耕作不能に陥り、農民が深刻な困窮状態になる。
レスター一家も長年耕してきた農地を銀行に取り上げられる。
「怒りの葡萄」のジョード一家は土地を諦め、西部に望みをかけるが、レスターは(というよりこの映画は)きわめて明るい。
全体としてはかなしい話ではあるけれど、少しだけ明るさを残したラストシーンはこの映画のかすかな救いだ。


2019年4月17日水曜日

フランク・キャプラ「或る夜の出来事」

クラーク・ゲーブルがいかす新聞記者として大金持ちの令嬢とかかわる。
「ローマの休日」のケーリー・グラントと似た立ち位置。
クラーク・ゲーブルは「風と共に去りぬ」でおなじみのスターだが、あまり映画を観ない者からするとグレゴリー・ペックもジェームス・スチュアートもみな同じに見える。
アメリカ人が日本の古い映画を観たら、森繁久彌もフランキー堺も千秋実も渥美清もきっと同じ人に見えるに違いない。
1934年、母の生まれた年の映画だ。
アメリカにはこんなに昔からおもしろい映画があったんだなと思う。

2019年4月15日月曜日

武内英樹「今夜、ロマンス劇場で」

映画のスクリーンからお姫さまが飛び出してくる。
誰もが夢みる物語を近ごろの映画はかなえてくれる。
ドラマの主要部分は1960年頃、映画産業に陰りが見えはじめた時代だ。
綾瀬はるかの‘なりきる’演技はきらいではないし、北村一輝、中尾明慶、柄本明と脇がいい映画は観ていてあんしんできる。
年老いた映画青年が加藤剛というのもなかなかしゃれたキャスティングだと思う。

2019年4月9日火曜日

デイヴィッド・リーン「オリヴァ・ツイスト」

何年かおきにディケンズの長編が読みたくなる。
『オリバー・ツイスト』は10年前に読んでいる。
たしかその前には『デイビッド・コパフィールド』、その後に『二都物語』を読んでいる。
ディケンズの小説はおさまるところにおさまるので安心して読んでいられる。
映画もそうなのだが、オリバーが悪いやつらにつかまると少々心配になる。
そこら辺が映画のいいところかもしれない。
ハッピーエンドだっかって?
そんな野暮なことはここには書かないよ。

2019年3月18日月曜日

川島雄三「青べか物語」

山本周五郎の原作を読んで、何度か浦安を歩いてみた。
そのせいもあって川島雄三監督のこの映画はぜひいちど観てみたいと思っていた。
原作も映画も舞台は浦粕(うらかす)という地名になっているが、浦安であることは明らかだ。
兄が営む造船所で少年工として働いていた吉村昭はここ浦安で終戦を迎えている。
今では東京都に隣接した町であるが、ついこのあいだ(といっても昭和30年代)までここは田舎の漁師町だった。
東野英治郎や加藤武ら名脇役や市川好郎、森坂秀樹(このふたりはキューポラコンビだ)ら子役たち、そして“ごったくや“の左幸子らが浦安弁をまじえながら貧しい社会の底辺を表現している。
それでいて屈託ない世界が描かれているのは川島雄三の持ち味といっていいかもしれない。

2019年2月23日土曜日

ベン・リューイン「500ページの夢の束」

自閉症というのは(たぶん)経験したことはないが、どことなくわかる気がする。
スタートレックも見たことはないけれど、なんとなくわかる気がする。
 他のことはともかくスタートレックに関してなら、とてつもない創造力を発揮する自閉症の女子がサンフランシスコからロスアンゼルスへ旅に出る。
パートナーであるチワワのピートが圧倒的にかわいい。
ロス市警のスタートレックおたくの警官もいかしている。
ハラハラしどうしだけれど、最後はほっとあたたかい気持ちになれた。

2019年2月22日金曜日

ジェームズ・サドウィズ「ライ麦で出会ったら」

J.D.サリンジャーのThe Catcher In The Ryeは何度か読んでいる。
野崎孝訳で読んで、ペーパーバックで読み、村上春樹訳も読んだ。
1992年、はじめてニューヨークを旅したときもセントラルパークのメリーゴーランドだけは絶対見たいと訪ねた。
ホールデン・コールフィールドに感情移入するしょうもない若者はいつの時代にもいる。
サリンジャーを訪ねるしょうもない高校生のロードムービーどいった趣きではあるが、まさかキャスティングされたサリンジャーに会えるとは思わなかった。
永遠に隠遁している人でもよかったんじゃないかとも思う。

2019年2月11日月曜日

エリック・ロメール「木と市長と文化会館 または七つの偶然」

何の予備知識もなく観た。
地方都市のドキュメンタリー映画かと思っていた。
フランスの田舎町サンジュイール市が舞台。
日本でもおなじみの都市部と農村の格差を浮き彫りにしている。
それでもさすがにフランス映画だ。
政治的な課題をとびきりおしゃれに描いている。

2019年2月9日土曜日

ルイ・レテリエ「グランド・イリュージョン」

4人のマジシャンがスケールの大きい犯罪を企てる。
たね明かしもされるのだが、マジックというのはなんでもできてしまうフレームだ。
マジシャンたちより彼らを追いかける側に視線が注がれる。
「オーケストラ」の天才バイオリニストだったメラニー・ロランがいればなおさらだ。
続編も公開されたようだが、残念ながら彼女はいない。

2019年2月6日水曜日

瀬々敬久「菊とギロチン」

昨年公開され、評価の高かった映画を観る。
大正時代に興業のあった女相撲とアナキスト集団にもし接点があったとしたらという発想から生まれた作品。
明治から大正へ時代が移る。この時代、日本はあらゆる可能性を秘めた少年時代だったのかもしれない。
高い理想を持ち続けた若者たちは次々に排除されていく。
大正デモクラシーの黄昏がはじまっていた。

2019年2月2日土曜日

エリック・ロメール「緑の光線」

主人公のデルフィーヌはめんどくさい女子。
偏屈でとうていモテそうにない。
こういう女性に感情移入できてしまう人もきっといるだろうけれど、めんどくさそうなのであまりお付き合いしたいとは思わない。
季節はバカンスシーズン。
大きなビーチがあるのはビアリッツ、フランス南西部スペインに近いリゾート地だ。
コートダジュールとは海の色が違う。

2019年2月1日金曜日

ニール・ジョーダン「オンディーヌ 海辺の恋人」

光文社古典新訳文庫にジャン・ジロドゥ『オンディーヌ』という戯曲があり、そのうち読んでみようかと思っていた。
これはその映画化されたものかと思っていたが、どうやら違うようだ。
ファンタジーを思わせながら、ちょっとおどろきの結末に向かっていく。
子役のアニー(アリソン・バリー)がいい。
オンディーヌが歌うとエビや魚がたくさん獲れるのはどうしてなんだろうという疑問は残るけれど。

2019年1月30日水曜日

黒澤明「羅生門」

何度か観ている映画だが、ヴェネツィア国際映画祭やアカデミー賞で高い評価を受けた作品だけについかしこまって観ていたように思う。
歳をとったせいだろうか、こういった傑作をようやくリラックスして観ることができるようになった。
久しぶりに観てみるとなんともおもしろい。よくできている映画だ(と僕なんぞが口にするセリフではないけれど)。
シチュエーションは3つしかない。
終戦間もない日本で贅を尽くすことなく、アイデアで世界に挑んだ名作だ。

2019年1月20日日曜日

篠原哲雄「地下鉄(メトロ)に乗って」

いつだったか、テレビで放映されたときに視た映画。
原作は大人のおとぎ話を得意とする(勝手にそう決めている)浅田次郎だ。
原作は読んだだろうか、記憶は定かでない(映画にはタチの悪いシューシャインボーイが登場する)。
新中野の駅前商店街は伊東で撮影されたという。
東京メトロが全面的に協力している。早朝深夜のロケ撮影だったのではないか。
みち子の部屋から早暁の中野検車区が見える。
きっとすぐそばを神田川が流れていたにちがいない。

2019年1月19日土曜日

相米慎二「ションベン・ライダー」

下町探検隊のKさんと呑んでいたとき、柳橋から神田川を遡上してたどり着いた御茶ノ水駅近くの居酒屋で映画の話になった。
相米慎二監督の「ションベン・ライダー」は観ましたか、こんどぜひ観てみてください、みたいな話になった。
どういった経緯でそんな話になったのかまったく憶えていない。
YouTubeでレンタルして観た。
横浜でロケ撮影されている。
アーチ型の架道橋を鶯色の電車が通り過ぎる。京浜東北線と合流して、桜木町から関内に向かう横浜線だろう。
ということはその下を流れているのは大岡川だ。
三吉橋あたりでも撮影されている。遠くに横浜橋商店街が見える。
橋が架かっている。石川町駅をくぐって、東京湾にそそぐ中村川だろう。
公開は1983年。今流れをふさいでいる首都高速道路神奈川3号狩場線はこのときできていなかった。
横浜の空がまだ高かった時代の映画だった。
Kさんとそんな話をしたのかもしれない、まったく憶えていないけれど。

2019年1月17日木曜日

セルゲイ・エイゼンシュテイン「ストライキ」

帝政ロシア時代、労働者の反乱と権力側の鎮圧。
圧政の時代はもうすぐ終わろうとしている。
この映画はセルゲイ・エイゼンシュテインの長編第一作であるという。
そういう目で観てみると、若々しさや荒々しさが感じられる。
革命とは暴力なんだとつくづく思う。

セルゲイ・エイゼンシュテイン「戦艦ポチョムキン」

映画に不勉強なこともあり、名前は知っているが、内容のわからない映画が多い。
小説でいえば『失われた時を求めて』や『アンナ・カレーニナ』がそうかもしれない。
「戦艦ポチョムキン」は古いソ連映画で、ちゃんと観なければ、イエローサブマリンみたいなイメージのままだった。
帝政ロシアから共産主義国家へ、この国は大変貌をとげた。
その事実をいまだ知らされていない国民もおそらく多いだろう(と思えるほどの国土を持っている)。
この映画で試行錯誤された映画的な手法は後の映画に活かされているという。
象徴的なシーンであるオデッサの階段もそのひとつだ。
もちろんそんなことすら知らなかった。

2019年1月13日日曜日

ジェローム・ル・メール「ブルゴーニュで会いましょう」

2015年のフランス映画。
原題は「Premieres Crus」、はじめての収穫といった意味か。
映画館の予告編で観てみたいなと思った記憶がある。
ワインをつくるなんてたいへんな仕事なんだろう。
登場する農家の人々の顔がそう語っている。
主人公のワイン評論家シャルリはみごとなワインをつくってしまうけれど、それがまた映画のいいところでもある。

2019年1月6日日曜日

ジョージ・スティーヴンス「シェーン」

古くから正義の強者を希求してきたアメリカ映画の歴史はヒーローの歴史だ。
シェーンはその歴代ヒーローのなかでも屈指の存在といえる。
昔のヒーローは簡潔でわかりやすい。
不倫なんかしない。
そしてこの時代のヒーローは何度も何度もピンチを乗り越えることもなく、あっという間に悪者をやっつけてしまう。
続編でもっと強いやつが登場することもない。
シェーンがアメリカの永遠のヒーローであり続けるのはそのわかりやすさと潔さよさのせいだろう。

2019年1月5日土曜日

スティーヴン・スピルバーグ「プライベート・ライアン」

第二次世界大戦におけるノルマンディー上陸作戦が熾烈を極めたことは「スタンド・バイ・ミー」で父親を語るテディを見るだけでもわかる気がする。
1944年、ドイツ軍にはまだ勢いがあり、リアルな戦闘シーン(もちろん目の前で戦争を見たことはないが)には度肝を抜かれる。
アメリカの俳優を多くは知らないが、ミラー大尉の周囲にレイアウトされた脇役がいい仕事をしていると思った。

2019年1月4日金曜日

ジョン・スタージェス「OK牧場の決斗」

1957年の名作をはじめて観る。
西部劇もほとんど観たことがなく、新鮮な印象だ。
わかりやすい勧善懲悪もので、しかも正義の側がバート・ランカスターとカーク・ダグラス(こちらは悪党だけどこの事件に関しては正義の味方だ)と映画音痴の僕でも名前を知っている名優をそろえている。
悪いやつらが何をしでかすかといえば、メキシコで盗んできた牛を高く売りつけるという。
何ともアメリカ西部らしいのどかでスケールの大きい悪事である。
ボニーとクライドと同じようにこの映画も実際に起こった事件をベースにつくられている。
アメリカにも歴史はあるのだ。
シンプルなストーリーがヒット作には欠かせない要素だということがよくわかる映画である。

2019年1月3日木曜日

若松孝二「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」

正月早々重苦しい映画を観た。
三島由紀夫の自決は少年時代の衝撃的な事件だった。
それからしばらく経って彼の作品を読むようになったが、その思想と行動はいまだによくわからない。
思想の狂気化、あるいは美学の暴走か。
市ヶ谷の防衛省前を通りがかるとき、50年近い昔そんな事件があったことを思い出す。

2019年1月2日水曜日

藤森雅也「かいけつゾロリZZのひみつ」

かいけつゾロリは以前仕事でお世話になった。
とあるお菓子のキャラクターとして起用され、テレビコマーシャルの企画を考えたのだ。
図書館で原作を何冊かまとめて読んだ(大人読みだ)。
子ども向けの図書としてロングセラーであるというが、大人が読んでもおもしろい。
作者の原ゆたかは僕たちの世代である。
随所になつかしいネタやおやじギャグが仕組まれている。
映画においても同様。
よく観ると大人だけがくすりと笑える箇所がいくつも隠されている。

2018年12月30日日曜日

ロン・ハワード「アポロ13」


高校バレーボール部のM先輩は、もう何年も前に亡くなられている。
大手の広告会社のクリエイティブディレクターだったこともあり、OB会以外でもお会いしている(残念ながら仕事をごいっしょしたことはない)。
先輩のオフィスでばったり会うと「よう、ハンクス君」と声をかけてくださった。
僕がトム・ハンクスに似ているわけではない。
たまたま床屋に行った直後など、いつももさもさしている頭髪がすっきりしているとどことなくそう見えたのだろう。
大先輩から(M先輩は僕の14期も上にあたる)かけられたことばがうれしくて、トム・ハンクスの映画はよく観るようになった。
ひたすら走り続けたり、夢の列車の車掌になったり、見知らぬ土地の空港に閉じこめられたり。
ストーリーはさまざまだがつい誘いこまれてしまう。
この映画は実話がベースになっている。
とりあえずよかったなとほっとしている。

2018年12月24日月曜日

ジム・ジャームッシュ「ダウン・バイ・ロー」

「ストレンジャー・ザン・パラダイス」に続いて観たのがこの作品。
同じようにモノクロームだが、ストーリーが明快でわかりやすい(はちゃめちゃなコメディであることに変わりはないけれど)。
アメリカ南部、おそらくニューオーリンズの湿地帯と枯れ木の風景が印象的な映画だ。

2018年12月23日日曜日

エリア・カザン「エデンの東」

スタインベックの短編を読む英語の授業があった。
大学の一般教養だったと思う。
その後、翻訳でスタインベックを何冊か読んでいる。
長編小説で印象に残っているのが『怒りのぶどう』と『エデンの東』である。
エデンはたしかハヤカワ文庫で4冊にわかれていたと思う。
キャルが母親をさがして出会うのはかなり後半の方で、映画ではそのあたりが描かれている。
いかにもアメリカ的な色彩を持った映画だ。
全体のストーリーの記憶が曖昧なのでこんど本も読んでみよう、もう一度。

2018年12月22日土曜日

ジム・ジャームッシュ「ストレンジャー・ザン・パラダイス」

80年代、あまり映画を観なかったにもかかわらず、この映画は衝撃的だった。
全編モノクローム、娯楽大作が主流のアメリカからこんなに静かな映画がやってくるなんて思いもしなかったからだ。
まるで昔のフランス映画やイタリア映画と見まごうばかり(というかそんなに観ちゃいないんだけど)。
舞台はニューヨーク、クリーブランド、フロリダと移ってゆく。
短い黒みが挿入されるのが特徴的だ、昔の地下鉄銀座線みたいに。
ロードムービーというより、メトロムービーと言っていい。

2018年12月19日水曜日

山田洋次「続・男はつらいよ」

好評だった第一作に続いて1969年に公開された第二弾。
母親との再会、恩師の死、そして失恋。
前作にもまして、物語に起伏があり、メリハリがあって、おもしろい。
いい映画だった。
寅さんは泣いてばかりいた。
泣くといえば、渥美清は寅さんになる前に「泣いてたまるか」というドラマに出演していた。
まだ小さかったけれど、憶えている。
子どもにも泣けるドラマだった。

2018年12月17日月曜日

山田洋次「男はつらいよ」

フーテンの寅さんは26年間に48作制作された。
そのうちの何本かを映画館で、テレビで観た。
何作めを観たのか、思い出してもわからない。
映画になる前はテレビで放映されたという。
微妙に配役が違っている。
さくらは長山藍子でひろしは井川比佐志だったらしい。
ふと思い立って、一作めを観る。
イラストレーターの安西水丸が著書『東京美女散歩』のなかで「寅さんシリーズでは、この第一作目が一番好きだ。光本幸子がとても美しい」と書いている。
なんとなくわかる気がする。
このあと何作も続くとは想定されていなかったのではないかと思う。