2021年12月18日土曜日

市川準「トキワ荘の青春」

市川準はCM制作会社の演出だった。
先輩ふたりと独立してフリーランサーになったとき、彼の作品集リールに収められたフィルムはほんのわずかだったと聞いている。
厳密に言えば、制作会社時代の市川は演出助手だった。
それでも彼には独自の企画力=人間観があった。やがてCMディレクターとして無二の存在になる。そしてずっと昔からつくりたかった映画の世界に。
市川準の道のりは決して平坦ではなかった。
この映画で描かれる漫画家志望の若者たちと同じように。

2021年11月8日月曜日

熊谷久虎「指導物語」

定年も間近な老機関士が帝国陸軍鉄道連隊の機関特業兵の運転指導にあたる。
不器用な老機関士と若い機関特業兵の、やはり不器用に心を通わせる。
1941年10月公開。
太平洋戦争に突入する直前、国民の戦意高揚を担った作品であることは明らかであるが、不器用なふたりは観ていて心があたたまる。
佐倉駅と千葉駅が登場する。海岸線をC58が走り抜けていく。房総半島だろうか。
小学生の頃、「すばらしい蒸気機関車」という記録映画を観たことを思い出した。

2021年11月7日日曜日

森川時久「童謡物語」

吉村昭『蜜蜂乱舞』が原作。
養蜂のことをこの本を通じて知った。
養蜂には定置養蜂と移動養蜂があり、花を求めて全国を旅する後者は莫大な労力とコストがかかるため、減少しているらしい。
ドラマは九州から北海道まで1年のうち7ヶ月を費やして蜂蜜を採取する家族の物語である。
蜜蜂は暑さにも寒さにも弱く、またスズメバチなど天敵もいる。
無事に全国を走りまわって一定量の蜂蜜を得ることは並大抵のことではない。
原作もそうだが、映画でも蜜蜂と暮らす縦糸にさまざまな人間ドラマを横糸にして展開していく。
主人公俊一、妻弘子(これは原作の主人公伊八郎とその妻利恵の長男とその妻の名である)は小学生の息子と弟子の清司と旅を続ける。
行った先の学校に転校生として迎え入れられる覚は原作には登場しないが、地元の子どもらのなかで儚い小学生時代を過ごす少年の視点がいい味付けになっている。
それにしても第一次産業に従事する井川比佐志はいい。
なにものにも代えがたい役者だ。

2021年11月2日火曜日

瀬川昌治「喜劇急行列車」

ラピュタ阿佐ヶ谷で「のりもの映画祭出発進行!」なる特集がはじまった。
長距離列車の旅でさまざまな事件、というの構図は古くからある。
獅子文六原作の「特急にっぽん」でもおなじみだ(もちろんこの映画も特集に組まれている)。
このあいだ観た「拝啓天皇陛下様」でも好演していた渥美清。
動きが細かくしきりに笑いを取りにいく。あざとい印象を受けるが、それはフーテンの寅さんという威風堂々たるベテラン喜劇役者を知っているからかもしれない。
鈴木やすし、関敬六、楠トシエ、Wけんじ、三遊亭歌奴と喜劇に欠かせない脇役をそろえ、佐久間良子、大原麗子とキャストも豪華だ。
舞台はブルートレイン。
長崎・佐世保行きの寝台特急さくら、そして日豊本線まわりで東京-西鹿児島を結んだ寝台特急富士。
残念ながら、寝台列車で九州に行くことはなかった。

2021年9月23日木曜日

ジョン・ギラーミン「タワーリング・インフェルノ」

休日、NHKBSで「タワーリング・インフェルノ」を観る。
パニック映画の嚆矢と言われるこの映画。製作は「ポセイドン・アドベンチャー」のアーヴィン・アレンである。
超高層ビルの火災。鎮火するまでの間にさまざまな人生ドラマが挿入される。分厚い作品に仕上がっている。
屋上の貯水タンクに水が入っててほんとうによかった。

2021年9月18日土曜日

フィル・アルデン・ロビンソン「フィールド・オブ・ドリームス」

オリンピック、パラリンピックはそれなりに盛り上がりを見せたけれど、今年スポーツ界を振り返る上で(まだ終わったわけではないけれど)最大の功労者は間違いなく、アナハイムエンジェルスの大谷翔平である。
ホームラン王のタイトルを獲れるかどうか微妙になってはいるけれど、秋になってもワクワクが止まらない。
この映画はずいぶん以前に観たが、大谷の活躍に刺激を受け、もういちど観たいと思っていた。
折しも先月BSで放映されたので録画しておいた。
少年たちが野球の夢を追いかける国に生まれてよかったと思う。

2021年9月3日金曜日

野村芳太郎「拝啓天皇陛下様」

阿佐ヶ谷ラピュタの長門裕之特集でもう一本観たかった映画がこれだ。
渥美清がいい、長門裕之もいい。なににもましてふたりの友情が素晴らしい。
配役もよかった。西村晃、加藤嘉、左幸子、桂小金治、藤山寛美、穂積隆信、多々良純、清川虹子、森川信、上田吉次郎、中村メイコ…。
それぞれの脇役がいい仕事をして、この友情物語をしっかりと支えていた。

2021年8月20日金曜日

今村昌平「豚と軍艦」

ラピュタ阿佐ヶ谷で長門裕之を特集している。
残暑厳しいなか、訪ねてみる。
終戦後まもない横須賀を舞台に破滅的に生きるチンピラ役が長門裕之。
横須賀の町は知らないけれど、知っていたとしたら懐かしい風景に出会えたに違いない。
養豚場のはるか向こうに灯台が見えていた。
観音埼灯台であろう。
木下恵介「喜びも悲しみも幾年月」を思い出した。

2021年7月22日木曜日

周防正行「シコふんじゃった。」

1992年公開。
登場人物がみんな若い(当然のことだが)。大学生役の本木雅弘はもちろんのこと、老けた先輩の竹中直人も、教授の柄本明も。
清水美沙は「稲村ジェーン」の頃から好きな女優だった。
エンドロールに三宅弘城の名前を見つけた。どこかの大学の相撲部員役だったのかもしれない。ちょうどこの映画が製作されていた頃に日本化薬という会社の企業CMに出演してもらったことを思い出した。まだ普通にオーディションにやってくる青年だった。

2021年6月28日月曜日

石川慶「蜜蜂と遠雷」

本屋大賞だの直木賞だのとずいぶん話題になった原作を読んだのが一昨年2019年10月。
ちょうどこの映画が公開された頃だ。
読み終わって、映画も観てみたいと強く思ったものの、あと何週間かで、映画が安く観られるようになるというケチな気持ちに後押しされて、結局見そびれてしまったのである。
はやくアマゾンプライムで観れないかなとかテレビで放映しないかななどと観たい気持ちとケチな心を保持しながら、待った甲斐あり。
ようやく観ることができた。

2021年2月15日月曜日

ケニー・オルテガ「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」

先日、BSで見るともなく見てしまったマイケル・ジャクソンのドキュメンタリー。
ロンドンを皮切りに、世界をコンサートしてまわる予定だったという。
そしてそのロンドン公演の直前にマイケルは帰らぬ人となる。
ライブ映画ではない、ただのリハーサル映像である。
それでも2時間近く堪能できてしまうのが、さすがキング・オブ・ポップである。

2021年1月4日月曜日

ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンズ「ウエスト・サイド物語」

アメリカは歴史にめぐまれない国ではあるけれど、こうしたミュージカル映画などを観ると着実に伝統を創造してきたことがわかる。
この映画から、新たな映画やエンターテインメントが誕生していった。
時間軸のなさをスケール感で補っているようにも思う。
それにしてもこの映画の舞台となった時代の青少年たちはろくでもない縄張り争いや抗争をくりかえしていたようだ。
もちろんその背後に自由主義経済、移民、貧困といった問題が浮かび上がってくる。
1961年といえば、ジョン・F・ケネディが大統領に就任した年であり、それ以降、ベトナムに対するアメリカの軍事介入が強まる。
この映画で描かれている社会問題がベトナム戦争の拡大に結びついているのではないかという考えは少し穿ちすぎかもしれないが、ここに登場する若者たちの多くが戦場に送り出されたことは(たぶん)たしかなことだと思う。