2019年12月31日火曜日

スティーブン・スピルバーグ「レイダース/失われたアーク」

年末の慌ただしい最中、BSでインディアナ・ジョーンズ。
何度観てもおもしろい映画こそ、本当におもしろい映画なのかもしれない。
行った先々でのトラブルにポジティブに向かい合う不死身のヒーローは、アメリカ映画の定石。
大学教授で専攻が考古学というのもインテリジェンスを感じさせる。
すごい映画だ。

2019年11月19日火曜日

川島雄三「箱根山」

原作は獅子文六。
加山雄三と星由里子、若大将カップルが主演の映画ではあるが、藤原釜足、東山千栄子、有島武郎、佐野周二、三宅邦子と脇役もすばらしい。
大人の事情に巻き込まれる乙夫と明日子。
加山雄三演じる乙夫はドイツ人とのハーフだが、不思議としっくりくる。
そういえば先日軽い脳梗塞を発症したとニュースが伝えていた。
若大将が心配である。

2019年11月12日火曜日

古川卓巳「太陽の季節」

終戦から10年が過ぎ、民主主義を植え付けられた子どもたちが時代の表舞台に登場する。
この映画は(原作も含めて)、その時代をシャープに切りとった作品といえる。
ところがこうして今観てみるとどうもピンとこない。
あまりに現実ばなれした感がある。
もちろん同時代を生きてきたわけではないから、腑に落ちない点は多々ある。
僕にとっては過去のある特殊な若者風俗としか映らなかった。

2019年11月7日木曜日

川島雄三「特急にっぽん」

獅子文六の『七時間半』では架空の特急列車ちどりが舞台。
東海道本線が全線電化されたとはいえ、電気機関車がけん引する特急列車では東京大阪間は7時間半かかっていた。
後に、この映画の舞台となる電車特急こだまが登場し、東京大阪は6時間半で結ばれる。
原作と映画のあいだに1時間の差がある。
背景には当時の鉄道技術の日進月歩がある。
2020年開業予定のJR山手線高輪ゲートウェイ駅付近には田町電車区(後に田町総合車両センター)という車両基地があった(田町駅寄りには東京機関区という機関車の基地があった)。
1960年、鉄道全盛期のなつかしい風景からこの映画ははじまる。
列車内のドタバタはおそらく車両基地に停めて撮影したのだろう、原作に輪をかけた喜劇が繰り広げられる。
フランキー堺は喜劇だけの俳優では決してないけれど、やはりコメディアンとして秀逸だ。
ずっと観たかった映画をようやく観ることができた。

2019年11月3日日曜日

ジョージ・ロイ・ヒル「明日に向かって撃て」

バート・バカラックの音楽が新鮮に聴こえるかつての名作をもういちど。
原題はButch Cassidy and the Sundance Kidといって、実在した強盗ふたり組だという。
「俺たちに明日はない(Bonnie and Clyde)」もそうだ。
ずっと昔に観たブッチとサンダンスはもっとかっこよかった気がする。
銀行強盗とかアウトローにもう憧れを持つ歳でもなくなったせいかもしれない。

2019年10月12日土曜日

山田洋次「息子」

父と息子と嫁は山田洋次が小津安二郎から受け継いだテーマか。
しっかり育てた兄、頼りない弟という構図は「東京家族」でもおなじみだ。
永瀬正敏といえば横浜ロケを思い出す。
デビュー作の「ションベンライダー」(相米慎二)「私立探偵濱マイク」など横浜がいちばん似合う俳優が東京の下町に溶け込んでいる。
都電荒川線の沿線がなつかしい。
三ノ輪橋、町屋、東尾久、川島征子の和久井映見が降りる停留所は飛鳥山だ。
哲夫が征子にラブレターを手渡す道端に石神井川の下流、音無川が流れている。

2019年10月8日火曜日

澁谷實「やっさもっさ」

今年は獅子文六没後50年ということらしく、神奈川近代文学館では獅子文六展が予定されていたり、ラピュタ阿佐ヶ谷では獅子文六ハイカラ日和と称して映画も特集されている。
観たい映画ばかりなのだが、映画が1000円になるのはあと少しかかるので尻込みしていた。
ようやく「やっさもっさ」を観る。
舞台は横浜根岸にある混血孤児の施設。
終戦直後の横浜が映し出される。
横浜駅ではシウマイ娘が崎陽軒のシウマイを売っている。
獅子文六の原作が映画化され、シウマイ娘は全国的に知られることになり、その人気にあやかって映画公開の翌昭和29年にシウマイ弁当が売られるようになったというが本当のところは知らない。
実は原作の『やっさもっさ』はまだ読んでいない。
筑摩書房がまだ文庫化していないからだ。
お昼はシウマイ弁当にした。

2019年9月24日火曜日

山田洋次「学校」


ロケ地は都電荒川線の小台か荒川遊園地あたりか。
京成電車の走る高架はおそらく町屋だ。
遠くに都電の踏切が見える商店街は梶原銀座に違いない。
再開発途上の南千住では遠くに隅田川貨物駅の建物が見えていた。
山田洋次の映画のなかでは「下町の太陽」「家族」が好きだ。
役者たちに力があって、演出を感じさせない。
この映画もそうだ。
西田敏行が大きな演技を抑えて、山田世界に溶け込んでいる。
すっかりなじんでいる。
夜間中学という設定自体にすでにテーマが見え隠れしているけれど、演出を超えたひとりひとりの演技に人々はきっと感動するのだろう。
田中邦衛、新屋英子、竹下景子。
誰もがみな素晴らしい。
映画そのものがいい学校だ。

2019年9月10日火曜日

ヴィンセント・ミネリ「巴里のアメリカ人」

ガーシュウィンの「パリのアメリカ人」は仕事をしながらよく聴く曲だ。
お恥ずかしいことにこれが映画の主題歌だったと知ったのはつい最近のこと。
どんな映画だったのかたしめてみることにした。
主演がジーン・ケリーだからおそらくミュージカル映画だろうとは思っていたが。
詳しいことは書かないけれどラストは圧倒される。
パリのアメリカ人の夢とエネルギーがファンタジックに描かれている。
「ラ・ラ・ランド」みたいな映画だった。
そうじゃない、この映画が「ラ・ラ・ランド」のベースになっているのだ。

2019年9月4日水曜日

内田けんじ「鍵泥棒のメソッド」

内田けんじの映画をはじめて観たのは十数年前、「運命じゃない人」というタイトルだった。
登場人物が微妙にかかわり合いながら、それぞれの視点でストーリーが構成されている。
目からウロコというか、当時その斬新な構造の映画に驚いた記憶がある。
今回観たこの映画も桜井、コンドウ、水島香苗のそれぞれの視点が気になる。
プロットと脚本がしっかりできている映画だと思った。

2019年9月3日火曜日

小森白「太平洋戦争 謎の戦艦陸奥」

吉村昭の小説に『陸奥爆沈』という作品がある。
昭和18年柱島に停泊中の戦艦陸奥が突然の爆発事故を起こし、あっという間に沈没した事件を題材にした記録文学である。
この映画もその事件を題材にしている。
外国人スパイによる犯行というかたちになっている。
真実ではないだろうが、実際謎に包まれたままなのであるから、もしかすると真実だったのかもしれない。
戦艦陸奥は模型が使われている。
1960年という時代を考えるとミニチュアによる撮影以外に方法はなかったのかもしれない。

2019年8月30日金曜日

ジャック・スマイト「ミッドウェイ」

ミッドウェー海戦は1942年、太平洋戦争の火ぶたを切った真珠湾攻撃の7か月後の出来事である。
当初、アメリカが苦戦を強いられるが、当時はまだ零戦をはじめとする日本の戦闘機の性能と操縦技術がアメリカを凌駕していたのかも知れない。
ただ物資の豊富さと情報に対する敏感さは当然、アメリカの方がすぐれている。
それにしても日本海軍が善戦したことは、映画の演出ではあろうが評価したい。

2019年8月26日月曜日

市川崑「野火」

先日観た塚本晋也監督の「野火」はリメイク版で、1959年に市川崑の手によってこの作品は映画化されていた。
主人公田村一等兵は船越英二で孤立した日本軍の敗残兵役は高く評価されたという。
ポリデントで入れ歯を洗浄するすっと以前の船越英二である。

2019年8月25日日曜日

黒澤明「天国と地獄」

ずいぶん昔のことだが、ある靴メーカーの広告をつくっていた。
その会社の工場は横浜の日吉にあり、いちど見学させてもらった。
ほとんど機械化されていたけれど古くからいる職人もいて、クラフトマンの世界なのだと思った。
主人公権藤は靴職人から常務取締役まで登りつめた男で、靴づくりに真摯に向き合って生きてきたと工場の古参(東野英治郎)が証言する。
この工場は日吉にあった工場に違いない。
横浜、鎌倉、小田原とロケ撮影されている。主たる舞台は横浜黄金町であるが、スタジオにセットを組んだシーンも多いという。
遠景で見る横浜はまだ空が高かった。

2019年8月17日土曜日

関川秀雄「ひろしま」

広島原子爆弾投下の8年後、1953(昭和28)年にこの映画は制作され、公開されていた。
昨日、NHKのEテレで放映されてはじめて知る。
自分のなかの恥ずかしい自分が恥ずかしい。
長田新の『原爆の子』をもとに脚本が書かれたという。
世界にヒロシマを伝えることもたいせつだが、日本人に、身近な人々にヒロシマを語り継いでいくことがなにより欠かせないという高校生の発言に目を見張る。
そして加藤嘉が泣かせる。

2019年8月2日金曜日

塚本晋也「野火」

夏になると戦争にまつわる映画を観たり、小説を読むことを心がけている。
それが日本人としての務めのような気がして。
映像技術が進歩しているせいで、火器を使った戦争映画がリアルになっている。
近代的な火器と映像技術を発達させたのは世界的な反戦運動家だったに違いないと思わせるほど残忍で悲惨な描写が可能になっている。
先日観た「プライベート・ライアン」なんてもういちど観よう気が起こらない。
ずいぶん昔に原作を読もうとして途中で断念した苦い記憶がある。
いずれにしても読み直してみたいと思っている。

2019年8月1日木曜日

深作欣二「火宅の人」

檀一雄の作品は読んでおらず、どういう人だったかわからない。
一般にはこの映画のタイトルどおり火宅の人だったと思われている(たぶん)。
檀一雄は長く石神井公園の近くに住んでいた。
それはCMプロデューサーだったご子息檀太郎氏の知人から聞いた。
大泉学園にある東映撮影所でCM撮影が行われたとき、その妹である檀ふみは自宅から自転車でやってきたという。
そんな話も昔知り合いのCMプロデューサーから聞いた。
石神井公園でロケ撮影も行われており、リアリティを感じるシーンになっていた。

2019年7月1日月曜日

鈴木清順「けんかえれじい」

映画監督としての鈴木清順は知名度があり、よく知っているつもりではあるけれど、実のところその作品を観たことはほとんどない。
少し特別な映画をつくる特別な監督という印象が強いせいか。
NHKBSで放映されるくらいだから、この映画はそのなかでも少しは一般向けの映画であるかと思ったが、なかなか一筋縄ではいかない作品だ。
とりわけラストシーンが難解だった。

2019年6月28日金曜日

本多猪四郎「ゴジラ」

子どもの頃は怪獣映画というだけでわくわくして観たものだが、そもそもゴジラとはいかなるメッセージをたずさえて生まれてきたのだろう。
水爆実験に対する批判かもしれない。
だとしたらこの映画は強烈だ。
原爆で終わらせた戦争からまだ10年にも満たない敗戦国の首都東京がふたたび火の海につつまれる。
逃げまどう子どもたちの様子は復興半ばである。
今となってはCM音楽になってしまっているが、この映画の音楽は戦後日本の映画音楽を代表するものと言っていい。
ゴジラはこの先、メッセージ性を薄めていくように思える。
最初のゴジラはいちばんたいせつにしたいゴジラだと思っている。

2019年6月18日火曜日

ロナルド・ニーム「ポセイドン・アドベンチャー」

何度も観ているのにもう一度観たい映画の最高峰といえるのが「ポセイドン・アドベンチャー」だ。
何度も観ているのに何度も息を止めて観てしまう映画は後にも先にもこれしかない。
パニック映画が本格化したのが1970年代と言われているが、この映画はまさしく嚆矢といえ、その後「タワーリング・インフェルノ」「ジョーズ」が生まれる。
ジーン・ハックマン演じる風変わりな牧師スコットをはじめ、サバイバーたちのキャラクター設定が素晴らしく、文句ばかりでいつも誤解されがちな刑事ロゴなんか、とてもいい人じゃないかと思う。
この暑苦しい男ふたりに導かれて生還する男女。
もちろん落命したものだっている。
緊迫の脱出劇の直前までは呑気に新年のカウントダウンをしていた。
この元祖パニック映画の主題歌「モーニング・アフター」をモーリン・マクガバンがさわやかに歌う。
なんとも凝った趣向である。

2019年6月3日月曜日

本多猪四郎「三大怪獣地球最大の決戦」

スクリーンにゴジラが登場したのが1954年だという。
2作目の「ゴジラの逆襲」など次々にヒットし、この映画は第5作。
ゴジラもラドンも地球を守るためにキングギドラと戦う。
後にテレビで「ウルトラQ」、「ウルトラマン」が放映されて怪獣ブームがはじまる。
この映画もおそらく映画館で観ているだろうが、1964年の公開時ではなく、当時どの町にもあった二番館、三番館で小学生になってからだと思う。
大井町や戸越公園に映画館があった時代をなつかしく思うと同時に付き合ってくれた親たちに感謝したい。

2019年5月23日木曜日

ウィリアム・ディーター「旅愁」

落語の佃祭という噺を思い出した。
神田から祭見物に出かけた男が帰りの舟に乗りそびれ、その舟が転覆してしまう。
飛行機事故というきっかけがなんともアメリカらしいスケールを感じさせるし、そんな時代だったのだと思い起こさせる。
モノクロ映画ではあるけれど、イタリアの風景が美しい。

2019年5月12日日曜日

山崎貴「DESTINY 鎌倉ものがたり」

C.G.をふんだんに使った魔界もの。
原作は「ALWAYS 三丁目の夕日」と同じく西岸良平だ。
映画としてじゅうぶんなエンターテインメントを楽しんでもらおうという意図が感じられる一方で西岸良平らしい空気感も保持できている。
よくできている映画だと思う。

2019年5月9日木曜日

キャロル・リード「第三の男」

何度か観ている気もしているし、ブツ切り的に観ているだけかもしれない名作。
こんな物語だったのかと思うのだから、おそらくちゃんと観ていなかったのだろう。
戦争の疵後を残したままのウィーンでロケされ、下水道の撮影もロケだったと聞く。
たいへんな撮影だったと想像する。

2019年5月5日日曜日

林海象「私立探偵濱マイク 遥かな時代の階段を」

大型連休、横浜中華街で水餃子を食べ、関内、伊勢佐木町、横浜橋、野毛を歩いてみた。
相米慎二監督の「ションベン・ライダー」で少年永瀬正敏が走り回っていたあたり。
その後永瀬は私立探偵になって、やはり横浜にいた。
事務所は黄金町にあった横浜日劇。
少年時代は中村川に架かる橋の上を走っていたが、この頃は大岡川の橋を何度も渡る。
横浜はさほど身近な場所ではなかったけれど、なんとも懐かしい映画だった。

2019年5月2日木曜日

ラオール・ウォルシュ「遠い喇叭」

広大なロケ地で展開される西部劇。
アパッチ族が連邦陸軍の兵士たちに駆逐される。
アメリカ史はほとんど知らないが、これだけの土地があるのなら平和的に共存共栄をはかればいいのにと思う。
先住者を追い出して征服することが西洋的伝統と言ってしまえばそれまでなのだが。

2019年5月1日水曜日

リチャード・ブルックス「雨の朝巴里に死す」

フィッツジェラルドの「パリの朝雨に死す」は以前読んだことがある。
記憶はそれほど残っていない。
酒におぼれた作家がひとりさびしく死んでいく、そんなストーリーだったかもしれない。
もちろんフィッツジェラルドの時代のパリだから第一次世界大戦後だったに違いない。
この映画では第二次大戦後になっている。
昔読んだ記憶がないのに、ちょっと違うよなあ、という感想を持つのもいかがなものかと思うけれど、なんとなくしっくり来ない映画だった。
それはともかくエリザベス・テーラーは圧倒的に美しかった。

2019年4月30日火曜日

黒澤明「七人の侍」

志村喬、三船敏郎、木村功、稲葉義男、千秋実、加東大介、宮口精二。
黒澤映画でおなじみの名優たちが野武士たちを討つ。
三船敏郎以外はすべてかっこいい。
とりわけ宮口精二がいい。
今リメイクしたらどんなキャストになるだろう。
勘兵衛・佐藤浩市、菊千代・木村拓哉、勝四郎・中村倫也、五郎兵衛・浅野忠信、七次郎・鈴木亮平、平八・香川照之、久蔵・嶋田久作。
嶋田久作はもちろん「帝都物語」の嶋田久作だ。
平成最後の暇な休日、くだらないことを考えている。

2019年4月29日月曜日

ティム・バートン「スリーピー・ホロウ」

ティム・バートンの作品では「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」や「チャーリーとチョコレート工場」を観ているけれど、実はそれくらいしか観ていない。
ドキドキわくわくするような映画を観ることが少なかったせいもある。
スリルがあって、スピード感があって、付いていくのがやっとである。
いずれもういちど観てみたい、平成の次の時代にでも。

2019年4月21日日曜日

黒澤明「用心棒」

三船敏郎になにかおもしろいことをやらせるというのが、黒澤明の大きなテーマのように思える映画がある。
この映画の三船もいたずら小僧のような役柄をうまくこなして、監督と観客の期待に応えている。
日本を代表する俳優ではあるものの、三船敏郎はけっして演技派ではない。
こう言ってしまっては申し訳ないが、存在感の役者である。
芝居としては仲代達矢の方が真に迫っていると思う。
それでもどちらを主役にするかといえばやはり三船なのである。
うまく言えないけれどそれが黒澤映画なのだ。

2019年4月20日土曜日

ジョン・フォード「タバコ・ロード」

その昔同名の小説を読んだことがある。
シャーウッド・アンダースンが作者だと思っていたが、これは記憶違いで原作はアースキン・コールドウェルだ。
内容は記憶にない。
1930年代、開墾によって発生した砂嵐で多くの農地が耕作不能に陥り、農民が深刻な困窮状態になる。
レスター一家も長年耕してきた農地を銀行に取り上げられる。
「怒りの葡萄」のジョード一家は土地を諦め、西部に望みをかけるが、レスターは(というよりこの映画は)きわめて明るい。
全体としてはかなしい話ではあるけれど、少しだけ明るさを残したラストシーンはこの映画のかすかな救いだ。


2019年4月17日水曜日

フランク・キャプラ「或る夜の出来事」

クラーク・ゲーブルがいかす新聞記者として大金持ちの令嬢とかかわる。
「ローマの休日」のケーリー・グラントと似た立ち位置。
クラーク・ゲーブルは「風と共に去りぬ」でおなじみのスターだが、あまり映画を観ない者からするとグレゴリー・ペックもジェームス・スチュアートもみな同じに見える。
アメリカ人が日本の古い映画を観たら、森繁久彌もフランキー堺も千秋実も渥美清もきっと同じ人に見えるに違いない。
1934年、母の生まれた年の映画だ。
アメリカにはこんなに昔からおもしろい映画があったんだなと思う。

2019年4月15日月曜日

武内英樹「今夜、ロマンス劇場で」

映画のスクリーンからお姫さまが飛び出してくる。
誰もが夢みる物語を近ごろの映画はかなえてくれる。
ドラマの主要部分は1960年頃、映画産業に陰りが見えはじめた時代だ。
綾瀬はるかの‘なりきる’演技はきらいではないし、北村一輝、中尾明慶、柄本明と脇がいい映画は観ていてあんしんできる。
年老いた映画青年が加藤剛というのもなかなかしゃれたキャスティングだと思う。

2019年4月9日火曜日

デイヴィッド・リーン「オリヴァ・ツイスト」

何年かおきにディケンズの長編が読みたくなる。
『オリバー・ツイスト』は10年前に読んでいる。
たしかその前には『デイビッド・コパフィールド』、その後に『二都物語』を読んでいる。
ディケンズの小説はおさまるところにおさまるので安心して読んでいられる。
映画もそうなのだが、オリバーが悪いやつらにつかまると少々心配になる。
そこら辺が映画のいいところかもしれない。
ハッピーエンドだっかって?
そんな野暮なことはここには書かないよ。

2019年3月18日月曜日

川島雄三「青べか物語」

山本周五郎の原作を読んで、何度か浦安を歩いてみた。
そのせいもあって川島雄三監督のこの映画はぜひいちど観てみたいと思っていた。
原作も映画も舞台は浦粕(うらかす)という地名になっているが、浦安であることは明らかだ。
兄が営む造船所で少年工として働いていた吉村昭はここ浦安で終戦を迎えている。
今では東京都に隣接した町であるが、ついこのあいだ(といっても昭和30年代)までここは田舎の漁師町だった。
東野英治郎や加藤武ら名脇役や市川好郎、森坂秀樹(このふたりはキューポラコンビだ)ら子役たち、そして“ごったくや“の左幸子らが浦安弁をまじえながら貧しい社会の底辺を表現している。
それでいて屈託ない世界が描かれているのは川島雄三の持ち味といっていいかもしれない。

2019年2月23日土曜日

ベン・リューイン「500ページの夢の束」

自閉症というのは(たぶん)経験したことはないが、どことなくわかる気がする。
スタートレックも見たことはないけれど、なんとなくわかる気がする。
 他のことはともかくスタートレックに関してなら、とてつもない創造力を発揮する自閉症の女子がサンフランシスコからロスアンゼルスへ旅に出る。
パートナーであるチワワのピートが圧倒的にかわいい。
ロス市警のスタートレックおたくの警官もいかしている。
ハラハラしどうしだけれど、最後はほっとあたたかい気持ちになれた。

2019年2月22日金曜日

ジェームズ・サドウィズ「ライ麦で出会ったら」

J.D.サリンジャーのThe Catcher In The Ryeは何度か読んでいる。
野崎孝訳で読んで、ペーパーバックで読み、村上春樹訳も読んだ。
1992年、はじめてニューヨークを旅したときもセントラルパークのメリーゴーランドだけは絶対見たいと訪ねた。
ホールデン・コールフィールドに感情移入するしょうもない若者はいつの時代にもいる。
サリンジャーを訪ねるしょうもない高校生のロードムービーどいった趣きではあるが、まさかキャスティングされたサリンジャーに会えるとは思わなかった。
永遠に隠遁している人でもよかったんじゃないかとも思う。

2019年2月11日月曜日

エリック・ロメール「木と市長と文化会館 または七つの偶然」

何の予備知識もなく観た。
地方都市のドキュメンタリー映画かと思っていた。
フランスの田舎町サンジュイール市が舞台。
日本でもおなじみの都市部と農村の格差を浮き彫りにしている。
それでもさすがにフランス映画だ。
政治的な課題をとびきりおしゃれに描いている。

2019年2月9日土曜日

ルイ・レテリエ「グランド・イリュージョン」

4人のマジシャンがスケールの大きい犯罪を企てる。
たね明かしもされるのだが、マジックというのはなんでもできてしまうフレームだ。
マジシャンたちより彼らを追いかける側に視線が注がれる。
「オーケストラ」の天才バイオリニストだったメラニー・ロランがいればなおさらだ。
続編も公開されたようだが、残念ながら彼女はいない。

2019年2月6日水曜日

瀬々敬久「菊とギロチン」

昨年公開され、評価の高かった映画を観る。
大正時代に興業のあった女相撲とアナキスト集団にもし接点があったとしたらという発想から生まれた作品。
明治から大正へ時代が移る。この時代、日本はあらゆる可能性を秘めた少年時代だったのかもしれない。
高い理想を持ち続けた若者たちは次々に排除されていく。
大正デモクラシーの黄昏がはじまっていた。

2019年2月2日土曜日

エリック・ロメール「緑の光線」

主人公のデルフィーヌはめんどくさい女子。
偏屈でとうていモテそうにない。
こういう女性に感情移入できてしまう人もきっといるだろうけれど、めんどくさそうなのであまりお付き合いしたいとは思わない。
季節はバカンスシーズン。
大きなビーチがあるのはビアリッツ、フランス南西部スペインに近いリゾート地だ。
コートダジュールとは海の色が違う。

2019年2月1日金曜日

ニール・ジョーダン「オンディーヌ 海辺の恋人」

光文社古典新訳文庫にジャン・ジロドゥ『オンディーヌ』という戯曲があり、そのうち読んでみようかと思っていた。
これはその映画化されたものかと思っていたが、どうやら違うようだ。
ファンタジーを思わせながら、ちょっとおどろきの結末に向かっていく。
子役のアニー(アリソン・バリー)がいい。
オンディーヌが歌うとエビや魚がたくさん獲れるのはどうしてなんだろうという疑問は残るけれど。

2019年1月30日水曜日

黒澤明「羅生門」

何度か観ている映画だが、ヴェネツィア国際映画祭やアカデミー賞で高い評価を受けた作品だけについかしこまって観ていたように思う。
歳をとったせいだろうか、こういった傑作をようやくリラックスして観ることができるようになった。
久しぶりに観てみるとなんともおもしろい。よくできている映画だ(と僕なんぞが口にするセリフではないけれど)。
シチュエーションは3つしかない。
終戦間もない日本で贅を尽くすことなく、アイデアで世界に挑んだ名作だ。

2019年1月20日日曜日

篠原哲雄「地下鉄(メトロ)に乗って」

いつだったか、テレビで放映されたときに視た映画。
原作は大人のおとぎ話を得意とする(勝手にそう決めている)浅田次郎だ。
原作は読んだだろうか、記憶は定かでない(映画にはタチの悪いシューシャインボーイが登場する)。
新中野の駅前商店街は伊東で撮影されたという。
東京メトロが全面的に協力している。早朝深夜のロケ撮影だったのではないか。
みち子の部屋から早暁の中野検車区が見える。
きっとすぐそばを神田川が流れていたにちがいない。

2019年1月19日土曜日

相米慎二「ションベン・ライダー」

下町探検隊のKさんと呑んでいたとき、柳橋から神田川を遡上してたどり着いた御茶ノ水駅近くの居酒屋で映画の話になった。
相米慎二監督の「ションベン・ライダー」は観ましたか、こんどぜひ観てみてください、みたいな話になった。
どういった経緯でそんな話になったのかまったく憶えていない。
YouTubeでレンタルして観た。
横浜でロケ撮影されている。
アーチ型の架道橋を鶯色の電車が通り過ぎる。京浜東北線と合流して、桜木町から関内に向かう横浜線だろう。
ということはその下を流れているのは大岡川だ。
三吉橋あたりでも撮影されている。遠くに横浜橋商店街が見える。
橋が架かっている。石川町駅をくぐって、東京湾にそそぐ中村川だろう。
公開は1983年。今流れをふさいでいる首都高速道路神奈川3号狩場線はこのときできていなかった。
横浜の空がまだ高かった時代の映画だった。
Kさんとそんな話をしたのかもしれない、まったく憶えていないけれど。

2019年1月17日木曜日

セルゲイ・エイゼンシュテイン「ストライキ」

帝政ロシア時代、労働者の反乱と権力側の鎮圧。
圧政の時代はもうすぐ終わろうとしている。
この映画はセルゲイ・エイゼンシュテインの長編第一作であるという。
そういう目で観てみると、若々しさや荒々しさが感じられる。
革命とは暴力なんだとつくづく思う。

セルゲイ・エイゼンシュテイン「戦艦ポチョムキン」

映画に不勉強なこともあり、名前は知っているが、内容のわからない映画が多い。
小説でいえば『失われた時を求めて』や『アンナ・カレーニナ』がそうかもしれない。
「戦艦ポチョムキン」は古いソ連映画で、ちゃんと観なければ、イエローサブマリンみたいなイメージのままだった。
帝政ロシアから共産主義国家へ、この国は大変貌をとげた。
その事実をいまだ知らされていない国民もおそらく多いだろう(と思えるほどの国土を持っている)。
この映画で試行錯誤された映画的な手法は後の映画に活かされているという。
象徴的なシーンであるオデッサの階段もそのひとつだ。
もちろんそんなことすら知らなかった。

2019年1月13日日曜日

ジェローム・ル・メール「ブルゴーニュで会いましょう」

2015年のフランス映画。
原題は「Premieres Crus」、はじめての収穫といった意味か。
映画館の予告編で観てみたいなと思った記憶がある。
ワインをつくるなんてたいへんな仕事なんだろう。
登場する農家の人々の顔がそう語っている。
主人公のワイン評論家シャルリはみごとなワインをつくってしまうけれど、それがまた映画のいいところでもある。

2019年1月6日日曜日

ジョージ・スティーヴンス「シェーン」

古くから正義の強者を希求してきたアメリカ映画の歴史はヒーローの歴史だ。
シェーンはその歴代ヒーローのなかでも屈指の存在といえる。
昔のヒーローは簡潔でわかりやすい。
不倫なんかしない。
そしてこの時代のヒーローは何度も何度もピンチを乗り越えることもなく、あっという間に悪者をやっつけてしまう。
続編でもっと強いやつが登場することもない。
シェーンがアメリカの永遠のヒーローであり続けるのはそのわかりやすさと潔さよさのせいだろう。

2019年1月5日土曜日

スティーヴン・スピルバーグ「プライベート・ライアン」

第二次世界大戦におけるノルマンディー上陸作戦が熾烈を極めたことは「スタンド・バイ・ミー」で父親を語るテディを見るだけでもわかる気がする。
1944年、ドイツ軍にはまだ勢いがあり、リアルな戦闘シーン(もちろん目の前で戦争を見たことはないが)には度肝を抜かれる。
アメリカの俳優を多くは知らないが、ミラー大尉の周囲にレイアウトされた脇役がいい仕事をしていると思った。

2019年1月4日金曜日

ジョン・スタージェス「OK牧場の決斗」

1957年の名作をはじめて観る。
西部劇もほとんど観たことがなく、新鮮な印象だ。
わかりやすい勧善懲悪もので、しかも正義の側がバート・ランカスターとカーク・ダグラス(こちらは悪党だけどこの事件に関しては正義の味方だ)と映画音痴の僕でも名前を知っている名優をそろえている。
悪いやつらが何をしでかすかといえば、メキシコで盗んできた牛を高く売りつけるという。
何ともアメリカ西部らしいのどかでスケールの大きい悪事である。
ボニーとクライドと同じようにこの映画も実際に起こった事件をベースにつくられている。
アメリカにも歴史はあるのだ。
シンプルなストーリーがヒット作には欠かせない要素だということがよくわかる映画である。

2019年1月3日木曜日

若松孝二「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」

正月早々重苦しい映画を観た。
三島由紀夫の自決は少年時代の衝撃的な事件だった。
それからしばらく経って彼の作品を読むようになったが、その思想と行動はいまだによくわからない。
思想の狂気化、あるいは美学の暴走か。
市ヶ谷の防衛省前を通りがかるとき、50年近い昔そんな事件があったことを思い出す。

2019年1月2日水曜日

藤森雅也「かいけつゾロリZZのひみつ」

かいけつゾロリは以前仕事でお世話になった。
とあるお菓子のキャラクターとして起用され、テレビコマーシャルの企画を考えたのだ。
図書館で原作を何冊かまとめて読んだ(大人読みだ)。
子ども向けの図書としてロングセラーであるというが、大人が読んでもおもしろい。
作者の原ゆたかは僕たちの世代である。
随所になつかしいネタやおやじギャグが仕組まれている。
映画においても同様。
よく観ると大人だけがくすりと笑える箇所がいくつも隠されている。